【episode 88】#You ページ40
芥川と目が合っていたのはどのくらいだっただろうか。
未だに芥川の顔は赤い。
中原さんはにやにや笑っているし、なんか居心地が悪い。
耐えきれなくなり、私は問いかけた。
「用って…なに?」
ぴく、と動く芥川の体。
何かを言おうと、口を開いては閉じる動作を繰り返している。
そして芥川が言葉を発した瞬間、静かな空間で振動音が鳴り響いた。
「あ……」
私の鞄の中で携帯が鳴っている。
二人は私を見ていたが、私はすがる思いで携帯を取り出し着信が誰からなのかも確認せず電話に出た。
誰かに助けを求めたくて、必死だったのだ。
「もしもしっ、」
『あ、出た』
携帯から聞こえた声は敦ではなかった。
私は少しだけ残念な気持ちになる。
『もしもしAちゃん?
私だけれど』
「…太宰さん?」
私がそう発言すると私たちを取り巻く雰囲気が一瞬にして変わった。
芥川は"太宰"という言葉に反応して身を乗り出して来る。
芥川の隣にいる中原さんの方を向くと、少しだけ俯いているように見えた。
顔は帽子に隠れていてよく見えない。
『ぴんぽーんっ』
太宰さんの楽しそうな声が私の耳元で響く。
…太宰さんは今、私がどういう状況か知らない。
こんなにも私はピンチだというのに。
忘れかけていた太宰さんに出会った頃の感情を思い出した。
『どうして電話に出なかったんだい?
今何してるの?』
ぴく、と体が動く。
助けて、太宰さん。
そう言ってしまいそうになり、片方の手で口を押さえた。
ダメだ、今言ったら敦が危険な目に遭ってしまう。
堪えなきゃ、堪えないと、
「…だ、太宰さ…ん、」
少しだけ、声が震えてしまった。
助けて欲しい、
気づかれてはだめ。
怖い、
大丈夫。
敦に会いたい、
敦を守らなくちゃ。
私の心の中で二つの感情が渦を巻く。
どちらとも私の本心で、嘘ではない。
敦が大切で、守りたい。
けれどそれと同じくらい今、敦に会いたいと思ってしまう。
自分のわがままさに嫌気がした。
【episode 89】#You→←【episode 87】#You
152人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
コトノハ - 一気読みしてしまいました!敦君の優しさと男前さが上がっていて、個人的にすごくドキドキさせられています!更新楽しみに待ってます!頑張ってくださいね! (2019年4月21日 8時) (レス) id: 611c145fdc (このIDを非表示/違反報告)
十六夜(プロフ) - あいさん» ありがとうございます。更新、遅くなってしまいすみません。なるべく早く更新できるよう頑張ります(*^^*) (2018年8月10日 21時) (レス) id: 0ec73a354d (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - 何度も読み返すくらい好きなお話です! (2018年8月8日 17時) (レス) id: 66c6f3f00c (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - 面白いお話で続きが気になります!更新頑張ってください! (2018年7月16日 16時) (レス) id: 66c6f3f00c (このIDを非表示/違反報告)
十六夜(プロフ) - ルカさん» ありがとうございます。更新、遅くなってしまいますがお付き合い頂けると幸いです(*^^*) (2018年6月20日 0時) (レス) id: 0ec73a354d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:十六夜 | 作成日時:2018年3月11日 10時