【episode 87】#You ページ39
芥川が暗闇から姿を現した。
体が強く強張るのを感じる。
「でも、芥川先輩…」
「お前には違う仕事が残っているだろう」
私を挟んで会話をする二人。
結局樋口さんは芥川に負けてしぶしぶといったように俯いてしまった。
無理だけはなさらないように、と言って静かに踵を返した。
そして一度だけちらりと私の方へ視線を向けた樋口さんだったらが何秒か見つめあったあと、また背中を向けて行ってしまった。
「ま、待って……」
遠ざかっていく樋口さんの背中に手を伸ばす。
待って、ひとりにしないで、
芥川と、あと知らない帽子の男とこんな場所でひとりにされたら、私、
「まぁ落ち着けよ」
とん、と肩に置かれる体温。
芥川ではない、帽子の方だ。
さっと血の気が引いた。
「俺は中原中也。
芥川と一緒にいるってことはまあ…どういう奴かってのはわかるよな？」
ここから早く逃げ出したい一心で一生懸命首に首を縦に何回も振った。
中原さんは楽しそうに口角を上げると芥川を呼んだ。
芥川は咳き込みながら私の目の前まで来るとぴたりと足を止める。
警戒しながらも芥川の目を恐る恐る見ると上から私を見下ろしていた。
いつものように光のない目ではあったが、前のような敵意は感じない。
ただ目の前に私がいるから見ている、という感じだ。
芥川に警戒心はある。
けれど初対面の知らない男がいるせいか、何度か接触したことのある芥川の姿を見ると少しだけ心が落ち着いた気がした。
そんなに長い時間ではなかったと思う。
私たちはしばらく無言のまま見つめあっていた。
何をいうわけでもなく、ただひたすらに。
冷たい表情をしていた芥川の目線が私の目ではなく少しだけ下の方に動いたのがわかった。
そしてそこを見つめたあと、芥川の顔が一瞬にして赤らんだ。
私は驚いて「え」と声を出してしまった。
「ん？なんだ芥川」
隣にいた中原さんも異変に気が付いたのか芥川の顔を見た。
赤くなっているのを見ると驚いたように少しだけ目を大きく見開く。
そして私と芥川を見たあと、そういうことか、と呟き口角を上げて妖しく笑った。
「芥川が手前に用があるんだとよ」
なぁ、と芥川へ問いかけると芥川はいつにも増して強めな咳をした。
思わず一歩芥川へ近づいてしまったことを自分で気づいて動きを止める。
それに気づいた芥川も私を凝視していた。
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コトノハ - 一気読みしてしまいました！敦君の優しさと男前さが上がっていて、個人的にすごくドキドキさせられています！更新楽しみに待ってます！頑張ってくださいね！ (2019年4月21日 8時) (
レス) id: 611c145fdc (このIDを非表示/違反報告)
十六夜(プロフ) - あいさん» ありがとうございます。更新、遅くなってしまいすみません。なるべく早く更新できるよう頑張ります(*^^*) (2018年8月10日 21時) (レス) id: 0ec73a354d (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - 何度も読み返すくらい好きなお話です！ (2018年8月8日 17時) (レス) id: 66c6f3f00c (このIDを非表示/違反報告)
あい(プロフ) - 面白いお話で続きが気になります！更新頑張ってください！ (2018年7月16日 16時) (レス) id: 66c6f3f00c (このIDを非表示/違反報告)
十六夜(プロフ) - ルカさん» ありがとうございます。更新、遅くなってしまいますがお付き合い頂けると幸いです(*^^*) (2018年6月20日 0時) (レス) id: 0ec73a354d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：十六夜 | 作成日時：2018年3月11日 10時
