世界で一番大切な人【中島敦】02

【episode 67】#You ページ19

"死"なんて、怖くないと思っていた。


生きていること自体が、私にとっては死んでいるのも同然だと思っていたからだ。


生きていたって、大人たちから暴力を受けるだけ。

それなら生きていなくていいんじゃないか、

息をしないほうが楽なのではないかー



けれど、私は生きる意味を見つけた。

敦という、私の生きる意味。


敦と生きてきて、敦との時間を共有してわかったことがあった。


息をして、生きることは意味があったんだと。

敦の隣にいることができるんだと。


敦のために、敦がいるから、
敦の隣にいたいから、私は生きたい。


私はまだ、死にたくない。



私は必死に手を伸ばす。

いやだ、まだ私はー




覚悟していた貫かれる感覚。

けれど私が感じたのは貫かれる感覚ではなく、何かが巻きつき宙に浮く感覚だった。



「えっ……」



「僕から逃げられると思ったか」



風を裂き、引っ張られている。
距離を取ったはずの芥川が目の前にいた。

腹に巻きつく赤黒い何か…


芥川の"羅生門"は私の体に巻きつき動きを封じていた。




私…死んで、ない……？

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