検索窓
今日:1 hit、昨日:15 hit、合計:77,213 hit

【episode 09】#You ページ9

私は慌てて立ち上がると敦の前に立つ。


「A?どうし…」


きらりと敦の目に満月が映る。
大きく目を見開いたまま、月を見つめていた。

私は敦の頭を急いで抱きしめる。
それと同時にガタン、と大きな音が倉庫にこだました。


「っ、A、今物音が…!」


「違う、音なんて…」


「きっと奴だ…太宰さん、あいつですよ!」


「風で何か落ちたんだろう」


「ひ、人食い虎だ…
僕たちを喰いに来たんだ」


「敦、落ち着いてっ…」


私の腕の中で暴れる敦。
敦にとってあの虎は恐怖でしかない。
孤児院にいたときからつきまとわれて、喰われると思っている。


「座りたまえよ敦君。あんなところからは来ない」


「どうして判るんです!」


やめて敦。
これ以上取り乱してはだめ。
このままじゃ…


「そもそも変なんだよ、敦君」


太宰は読んでいた本を音をたてて閉じた。


「経営が傾いたからって養護施設が児童を追放するかい?
大昔の農村じゃないんだ」


「やめて…」


「いやそもそも経営が傾いたんなら一人二人追放したところでどうにもならない。
半分くらい減らして他所の施設に移すのが筋だ」


「太宰さん何を言って…」


太宰の言葉に振り返る敦。
そして、私たちを照らす大きな月がまた敦の瞳に映る。


「だめ、敦!こっち向いて!!」


強く腕を引っ張るがビクともしない。
完全に月に見入ってしまっていた。


「君が街に来たのが2週間前
虎が街に現れたのも2週間前
君が鶴見川べりにいたのが4日前
同じ場所で虎が目撃されたのも4日前」


「っ、やめてってば!!
ねぇ、敦っ……!!」


「国木田君が言っていただろう。
"武装探偵社"は異能の力を持つ輩の寄り合いだと。
巷間には知られていないがこの世には異能の者が少なからずいる」


喋り続ける太宰。
ギギギ…と嫌な音を立てて姿を変える目の前の敦。
必死に揺すっても敦はこちらを見ようともしない。
みるみるうちに敦の姿は……


「その力で成功する者もいれば、力を制御できず身を滅ぼす者もいる。
大方施設の人は虎の正体を知っていたが、君には教えなかったのだろう」


…だから嫌だ、とやりたくないと言ったんだ。


「君だけが解っていなかったのだよ」


…敦だけが解っていなかった。


「君も"異能の者"だ。
現身に飢獣を降ろす月下の能力者…」


月の光に照らされた敦は、彼が最も恐れていた"人食い虎"になっているのだ。
私は宙に浮いていた手を力なく降ろすと、地面へと座り込んだ。

【episode 10】#You→←【episode 08】#You



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (30 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
57人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

十六夜(プロフ) - 胡蝶さん» コメントありがとうございます。励みになります。中也さんの登場が私自身も待ち遠しいです^ ^ (2018年3月10日 11時) (レス) id: e6ba942cc6 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶 - 凄くおもしろかったです。夢主ちゃん、中也さんと気が合いそうですね。これからどんな展開になっていくのか楽しみです。 (2018年3月10日 0時) (レス) id: 7857e3d4af (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:十六夜 | 作成日時:2018年2月27日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。