【episode 08】#You ページ8
太陽が沈み、あたりも静かで今はもう太宰の本をめくる軽やかな音と波が押し寄せる海の音しか聞こえない。
あのあと私たちは太宰に連れられて敦と共に倉庫へと来ていた。
国木田さんに一枚のメモを渡すと、にこにこと微笑みながら私たちを先導した。
敦は私の隣で膝を抱えて太宰を見ている。
太宰の読んでいる本の表紙を見て顔を歪ませた。
「…本当にここに現れるんですか？」
「本当だよ。
…ねぇAちゃん」
本を読みながら、でも確かに私の方へ目だけを向けて怪しく笑う。
私は太宰を睨むと膝を強く抱えた。
くすり、と太宰は笑うと私たちの方を見て口を開く。
「心配いらない。虎が現れても私の敵じゃないよ。
こう見えても"武装探偵社"の一隅だ」
…自信のある、堂々とした言い方だ。
私たちのように蔑まれてきた人間とは違う。
敦も同じことを思ったのか、つぶやいた。
「はは、凄いですね 自信のある人は。
僕なんか孤児院でもずっと"駄目な奴"って言われてて」
ー駄目な奴。
私と敦が毎日のように言われていた言葉。
駄目な私たちの言葉なんて、あの人たちには届かない。
どんなときだって、見捨てられてきたのだ。
そんな自分に自信なんかない。
だから少しだけ、太宰のことが羨ましく思えた。
「今日の寝床も明日の食い扶持も知れない身で…
こんな奴がどこでのたれ死んだって、いやいっそ喰われて死んだほうが…」
「っ、やめてよ敦…
敦がいなくなったら私…」
縋るように敦の袖を掴む。
そうだ、敦がいなくなってしまったら私はどうやって生きていけばいいのだろう。
今まで私が生きてこられたのは敦がいたから。
辛い時も悲しい時も楽しい時も、どんな時だって敦と共有し合ってきた。
そんな私にとって敦はー…
敦はごめんね、と眉を下げて笑うと私の頭を優しく撫でた。
太宰は私たちのやり取りを聞きながら、静かに空を見上げた。
そしてひとつ息を吐くと
「さて、そろそろかな」
その言葉に私は勢いよく空を見上げる。
そこには、綺麗な満月が顔を出していた。
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十六夜(プロフ) - 胡蝶さん» コメントありがとうございます。励みになります。中也さんの登場が私自身も待ち遠しいです^ ^ (2018年3月10日 11時) (
レス) id: e6ba942cc6 (このIDを非表示/違反報告)
胡蝶 - 凄くおもしろかったです。夢主ちゃん、中也さんと気が合いそうですね。これからどんな展開になっていくのか楽しみです。 (2018年3月10日 0時) (レス) id: 7857e3d4af (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：十六夜 | 作成日時：2018年2月27日 22時
