36匹 ページ43
寮内は夜の静寂に呑まれ
普段なら気にもならない空調のモーター音がやけに大きく感じる。
カリカリとペンを動かし、メガネの下の長いまつ毛を伏せ、ゆっくりと瞬きをしたラウンジのオーナー
ア「……いつまでそこに居るつもりだ？」
彼一人しかいないこの部屋。
さも誰かがそこに居るように、隠れんぼをする小さな子供に声をかけるように。
ア「どうして、お前は自己犠牲のような力ばかり……そばに居る僕らの気も少しは考えろ……まぁ、今回ばかりは助かりました。」
引き出しから小さな古いオルゴールを取り出した。
オルゴールの蓋は開けられており、聞き馴染みのないメロディーと共に微かに映像が映っている。
ア「さぁ、そろそろ目覚めてもらいますよ」
見計らったようにカチリと止まったオルゴール。
そっと蓋を閉めて、アズール･アーシェングロッドは椅子から立ち上がる。
ア「おはようございます。人魚姫ごっこはどうでした？」
水槽の前で立ち止まり、クルクルと楽しげに泳ぐ1匹の人魚。
白みの強い尾ひれに星を散らしたような鱗の模様痛々しい尾ひれの傷さえなければ完璧な人魚姫だ。
『おはよう、楽しかったわとでも言うと思った？』
ア「思ったより元気そうですね、何があったかは見てたのでしょう」
『ええ、お疲れ様アズール。それとあなたの薬は受け取らないわよ？』
ア「は？何故です？」
『試験……』
ア「……なるほど、対策ノートができる上がるまでお借りします。」
『ええ！でも、たまに起こして頂戴。私も疲れるの……それ、欠陥品ね』
ア「そんな事ない。僕が保証します あなたが眠っている間あなたの稀有な能力が借りられるんです」
『そう……でもあなたに貸してあげられるものなんて、私の時間と魔力あとは記憶ぐらいよ』
ア「僕とお前で作った力をそんな簡単に言うな 僕はお前のその生まれ持った才能が喉から手が出るほど欲しいのに」
『そうね……ごめんなさい』
ア「だから、しばらく使わせて貰いますよ」
『ねぇ、久しぶりに聞いていかない？フロイドとジェイドも呼んできてよ』
ア「何時だと思ってるんだ？」
『いいじゃないの！人魚の祝福よ？受け取りなさいよ！』
ア「分かった分かった……起こしてくるから待ってろ」
『やったぁ！』
また暫く寝てしまうからか、それとも別の。
ウツボを起こして、再びラウンジに戻ればにこやかに優しい声色で恋人の名前を告げた。
ああ、なんでこんなに胸がチクチク痛むのか…
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作者名：涼 | 作成日時：2022年9月8日 18時
