名を付けるならなんと呼ぶ Ⅱ【ONEPIECE】 (ページ33)

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深く、深くため息をつく。

俺に向かって背を向け、行きましょう、と何事も無かったかのように歩き出す少女を見送って、モヤモヤとした、ドロドロとした気持ちが沸き上がる。

彼女は、己の身を犠牲にする事を、なんの躊躇いもなく行う。

思えば最初の出会いの時もそうだった。彼女は、見知らぬ子供を庇って自らの命を捨てる所だったのだから。俺が通り掛かって気まぐれに血を与えなければ死んでいただろうに。それに恐怖する様子も見られなかったことに今更ながら気付く。
俺は外科が専門であり、精神科は専門では無いとは言え、流石にその異常性には気付くべきだったな、と頭を抱えた。

どんな人間にも、ある程度『防衛本能』という物が備わっているものだ。死を感じて足がすくむのも、自分の身を守ろうと身体が動くのも、それが正常に機能しているからだと言える。

だが、コイツは＿＿Aは。
本当に自分の身が傷付けられる事に対して
全くと言っていいほど防衛本能が働いていないような気がする。

血を飲めば治るから、と彼女は言った。

その発言にカッとなって、らしくない、つい責めるようなことを言ってしまった。謝ったAの声があまりにも弱々しくてそれ以上責める様なことは言えなかったが、
今回のことだって、別に彼女の能力をもってすれば、本来防ぎ用は他にもあった筈なのだ。

でも、彼女は『自分が傷つくこと、痛みを感じること』を完全に度外視し、『リスク』に全く勘定せず、非情に、当たり前に、“最善の行為”を選択したのだと思う。
でもそのあまりにも合理的すぎる考えは、異常だ。
善意の自己犠牲等というレベルでは無い。
もっともっと潜在的な価値観を大きく歪められているような気がした。

この時もっと俺は、この事態を重く受け止めておけば良かったのかもしれない。
彼女の足の怪我に気付くことも出来ないほど、彼女のとった行動に翻弄されてしまっていた。

＿＿＿＿…

通報等は既に済んでいて、懸賞金の受け取りも後日問題なく行えるという事が分かっていた私達は、まだ賞金首では無く顔も割れていないとは言え軍と鉢合わせするのは些か気分も宜しくない、と言ったローさんの意志を優先して
地下施設に入った時とは別の出入口から出る事にした。