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「……何時だ」
「っと、8時……半？かな」
いやいや、さすがに寝すぎだろ、と頭を抱えそうになる。そんなに眠るのは久しぶり所の騒ぎじゃない。失態に分類される。
「航海の指示はちゃんと出しといたよ、今日は午前中は帆を張って浮上したまま進むって」
「…あぁ……あ？」
「ベポに言ったよ、大丈夫」
驚きすぎてAの言ってることがよく入ってこなかったが、まぁ、もういい。
「朝ごはん食べ逃しちゃったでしょ、作ってきたげるから、」
「……おにぎり」
「アイ･サー、キャプテン」
「お前はそう呼ぶな」
「はは、わかったごめん、ロー」
おにぎりを要求したのも、呼び方を治したのも、特に大きな意味は無い。ただ、“いつも通り”が好きなだけだ。軽やかにAがくすりと笑った息遣いが聞こえる。
もう一度寝返りを打ってAの身体の方に顔を向けると、「もう少し寝る？」ときかれた。全く眠くもないというのに、「5分」と答えておいた。
ゆるり、とまたAの手が俺の髪をかきまぜる。窘めるように、守るように。
＿＿＿＿そういやコイツは、昔もこんな風に俺の頭を撫でていたな、と遠い過去を思い出す。
まだ、炎に巻かれる故郷や、寒い雪の中に滲む赤い染みを、眠った夢の中で思い出しては跳ねるように起き、眠れない夜を過ごしていたあの頃。
そういう日に限って、Aは眠れないと起きては、くだらない話をぺらぺら聞かせたり、こっそり夜中に料理を作ろうと言い出して、勝手に2人分のおにぎりを握ったり。兎に角自由な奴だった。
お陰で、眠れない夜に見た夢を思い出して震える事は結局1度もなかった。
………敵わない、敵う訳が、無い。
涙を飲んで身の上の全てを晒し吐き出したあの日から、Aにだけは、嘘も誤魔化しも効いた事がないから、諦めている。
言う事も聞かない、守らせてもくれない、でも何処までも俺の心が闇に沈んでぐしゃりと潰れてしまいそうな時、そこからおれを救い出すのは彼女なのだ。
陽だまりのようだ、温い。
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ローが寝る迄の全てが意図的です。
今も昔も。航海の予定を
『ベポに伝えた』と言ったのは、
平のクルーに無防備に寝ている所を
見られたことを一応隠すため。
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作者名：幸せうさぎ | 作成日時：2023年2月9日 0時
