君との合言葉は【Ⅱ】 (ページ11)

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「A」

「そーいち！」

「偉いやん。A、ちゃんと火消しできて」

「ん、」

　髪をぐしゃぐしゃにされたまま、Aは颯一郎の車に乗せられる。流れるような動作でシートベルトを装着させられた。

「俺の車……」

「明日も一緒に来たらええやん」

「やだそーいちイケメンじゃないの」

「キャラおかしいぞー」

　颯一郎はケラケラと笑って車を走らせる。Aは窓の外を見ながら、今日の出来事を思い出していた。

「そーいち」

「ん？」

「俺、楽しかったわ」

「……そっか」

　颯一郎は小さく笑ってまた前を向いた。その横顔を盗み見ながら、Aは言葉を続ける。

「……そーいちさ、ブルペンでも俺に声かけてくれたやん？」

「あー、うん」

「あれ、嬉しかったわ。ありがと」

　Aはそう言うと、照れくさそうに笑った。颯一郎はそんなAの頭を撫でながら口を開く。

「……試合前のやつさ、別に嫉妬とかじゃないんよ。ただなんか……俺の知らんとこで楽しそうにしてるAが嫌やっただけ……やと思う」

「……」

「やから、今日だけ俺のこと褒めるとかナシで。褒めるんやったら毎秒褒めて欲しい」

「自惚れんな」

「ひどっ」

　颯一郎がケラケラと笑ってハンドルを切った。Aもつられて笑う。そして車は、Aの住むマンションへと到着した。