君との合言葉は (ページ8)

今日:42 hit、昨日:42 hit、合計:39,351 hit

. ページ8

廊下を抜け、グラウンドへ出るとAはダグアウトのベンチに座る。生ぬるい風が左から右、右から左にAの前髪を攫っていった。あの空気感に耐えられるほど、Aのメンタルは強くない。自分のせいで雰囲気がじわじわと悪くなってくる感覚。その感覚がどう頑張っても克服できそうになかった。

「……練習しよ」

　Aはそう言ってグローブを嵌める。そしてグラウンドに出て行くと、いつものルーティンをこなした。

「……英河！」

「はい！？」

　ハッと我に返ったAは慌ててコーチの方に駆け寄る。

「やりすぎ、休憩しろ」

「すいません、」

　Aは頭を下げて、フェンス際に腰を下ろして天井を見上げた。ドームなので空は見えない。しかし、その天井から漏れる光がAの心を落ち着かせてくれた。

「ふー……」

　特に裏に戻ってもやることはないので、Aはしばらくそのままの体勢でいることにした。