君との合言葉は (ページ42)

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「あ、Aいます？」

「今フルーツ食べてる」

「1個もらおー」

　由伸はAの座っている席に向かった。その間にもAはもりもりとフルーツを食べている。

「リスやん」

　Aの向かいに座るなり、由伸はそう言った。Aは口にフルーツを含んでいたため何も言えず、ただもぐもぐと口を動かすだけだった。

「かわい、A」

「？」

　口いっぱいにフルーツを含んだまま、Aは首を傾げる。すると由伸はAの頬に手を当てて、親指で口の端から溢れた果汁を拭った。

「溢れてる」

「？」

　Aが不思議そうな目で由伸を見つめると、由伸はスッと目を細めてその親指をペロリと舐めた。

「あま」

「え、あ、」

　Aはやっと状況を理解したのか顔を赤くする。そんなAを見て由伸は嬉しそうに笑った。そして何も言わずに立ち上がると、練習へと向かって行った。

「さちや由伸な。俺、英ちゃんやるわ」

「オッケーっす。『溢れてるよ、A』」

　横で山﨑と杉本が揶揄うようにさっきの場面を再現してみせる。

「ほんまやめてください！ちょ、マジで！」

「ウブやなー、A」

「ウブチガウ！ゼッタイチガウ！ゼッタイ！オレウブジャナイ！」

「『オレウブジャナイ！』やってさ、福也」

　ケタケタと笑いながら杉本はスマホを構えている。どうせインスタにでも載せるのだろう。

「何騒いでんすか」

　颯一郎がタイミング良くサロンに入ってくる。そしてAの姿を見つけると、嬉しそうに駆け寄った。

「A、練習行こ」

「ん」

　颯一郎がAの肩を抱いて踵を返す。その瞬間、彼の目が冷たい光を帯びたことに誰も気が付かなかった。