第12話 ページ38
「A」
「なに、そーいち」
「手繋ご」
「暑いから嫌や」
あの日以来、颯一郎はAによく絡むようになった。今も練習終わりの更衣室で着替えているところだ。
「いやや」
「なんで？」
「暑いからって言うとるやないか」
「じゃあ、手繋がんでええからぎゅうしよ」
「話聞いとったか？」
「漫才してるやんもう」
心底おかしそうに山岡が笑う。それを見てAは山岡に助けを求めるような視線を送るが、山岡はそれを華麗にスルーしてロッカーを閉めた。
「え、ちょ、泰さん」
「はいはい。お疲れさーん」
山岡はそう言うと、さっさと更衣室を出て行ってしまった。残されたAと颯一郎の間に気まずい空気が流れる。
「なあA」
「なんやねん」
「ぎゅーしよ」
「だから暑いから嫌やって言うてるやろ」
Aがそう言っても、颯一郎は引き下がらない。そしてじりじりと距離を詰めてくる。その圧に負けたのか、Aはため息混じりに言った。
「……ほんまに暑いからちょっとだけな」
「やった」
颯一郎は嬉しそうに笑った。そしてそっとAを抱きしめる。その腕は優しく、ふわりと包み込まれるような温かさがあった。
「暑ない？」
「ちょっと暑いけど、ええよ」
Aも控えめに抱きしめ返すと、颯一郎の心臓の音が聞こえてくるような気がした。それは少し早くて、なぜか懐かしく感じる。
しばらくそうしていると、更衣室のドアが大きく開かれる。そして、
「え、は……？そーいち、何しとんの？」
と冷たい声が降ってきた。2人は抱き合っていた体を離し、ドアの方を見ると、そこには中川が立っていた。
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作者名：usa426 | 作成日時：2023年11月1日 23時
