君との合言葉は (ページ37)

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「あ、A」

　颯一郎がAの名前を呼ぶと、Aは精一杯怒っているぞアピールをしながら振り返った。

「なに」

「プリンの残り食っていい？」

「だめ」

　Aはそう言うと、再び食器を片付けに行ってしまった。その後ろ姿を見て颯一郎はケラケラと笑う。すると隣から由伸が話しかけてきた。

「そーいちってほんまAのこと好きよな」

「まあな」

　颯一郎の言葉を聞いた由伸は少し考える素振りをして言った。

「……俺もA好きやねんけどな」

　それは颯一郎には全部聞こえないほど小さなものだったが、その意思はハッキリと理解できた。

「今なんて言った？」

　颯一郎は由伸の言ったことが信じられず、思わず聞き返した。しかし由伸は知らん顔をして食器を片付けに行くAを見つめている。そして2人の間に微妙な空気が漂った。

「……」

「何、この空気」

　いつの間にか帰ってきたAが怪訝そうな顔をして2人を見る。

「いや、なんもないで」

「ふーん」

　Aは何も聞かずに荷物をまとめ始める。そんなAを見て、由伸は颯一郎にだけ聞こえる声で言う。

「俺は誰にも負けへんから」

　宣戦布告とも取れるその発言に、颯一郎は横目で由伸のことを睨みつけた。

「お前だけやない」

　颯一郎がそう言うと、由伸は鼻で笑って食堂を出て行った。

「あれ、由伸どこ行くん？」

「知らん」

「そーいち？怒ってる？」

　Aがそう聞くと、颯一郎は首を横に振る。そして少し考えた素振りをして言った。

「怒ってへんよ」

「そっか」

　そう言って笑うAを見て、颯一郎も笑顔になる。そして2人も食堂を出て行った。