君との合言葉は (ページ36)

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「A、見てや」

「ん？」

　練習終わりに食堂でご飯を食べていると、向かいに座っている颯一郎がデザートのプリンを見せつけてきた。

「な、なんやねん」

「これ、めっちゃうまそうやと思わん？」

　スプーンの上で揺れるプリンにAの目が釘付けになる。無類の甘い物好きであるAにとって、このプリンはあまりにも魅力的だった。

「う、でも俺食われへんから……」

「そっか。じゃあいただきまーす」

　大きく口を開けてプリンを頬張る颯一郎を見て、Aは羨ましそうに眺める。すると隣からスプーンが伸びてきた。反射的にそれをパクッと咥えると、ピーマンの味がする。

　横を見れば由伸がしてやったりと言いたげな顔でこちらを見ている。そんな顔でも様になるのだから、イケメンって怖いな。とAはどこか他人事のように思った。

「……やってんな」

「何を？」

　由伸はまたスプーンを持ってオムライスを食べ始める。端の方にピーマンだけが綺麗に重ねられていて、Aは由伸の皿を見て顔を顰めた。

「ピーマン嫌いなんやったら俺の皿に移してや。積むな。ピーマンを」

「はあい」

　ひょいひょいとAの皿に移されていくピーマンたち。Aはそれをスプーンで掬って食べ始める。

「美味しいのに」

「俺は嫌いなの」

　由伸はまたオムライスを食べ始める。Aもスプーンで掬って食べると、ピーマンの苦味が口に広がった。

「……苦い」

「子供舌」

「お前ほんましばくぞ」

　見せつけるようにプリンを食べていた颯一郎をスマホのカメラで撮ると、Aは残っているオムライスを片付けにかかかった。

「ごちそうさまでした」

「はやっ！」

　颯一郎はAが食べ終わった食器を見て驚く。自分はまだプリンを半分も食べていないのに、もうAはオムライスを完食してしまったようだ。

「早食いは太るで」

　由伸はAの腹を摘むと、またAに頭を叩かれた。そしてプリプリと怒ったまま食器を片付けに行く。