君との合言葉は (ページ35)

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「宮城選手〜！」

「英ちゃ〜ん！」

　練習中、客席の方からはそんな声が聞こえてきた。Aはその声に手を振って答える。すると後ろにいた宮城も手を振って答えていた。

「宮城、大人気やん」

「英さんも人気やないですか」

「いやいや、宮城に比べたらよ」

　Aはそう言って宮城の襟足を触る。伸ばしているらしいそこは、触り心地がよかった。

「英さんこそ人気やないですか」

　宮城はそう言ってAの襟足に手を伸ばす。そしてなぜか首を傾げていた。

「俺は最近襟足切ったからな。ないで」

「あ、そうなんすか」

　宮城は拍子抜けしたように言うと、てぽてぽと効果音のつくような歩き方をしてAの隣に並んだ。

「英さん、なんか今日ぼーっとしてません？」

「え？そう？」

「はい」

　宮城がそう言うと、Aは苦笑いする。そして宮城の頭をくしゃっと撫でた。
「お菓子禁止やからかな」

「え、お菓子禁止？」
「そう。だからなんか物足りなくてな」

　Aがそう言うと、宮城はクスクスと笑った。そして頭に置かれたままのAの手を優しくどけると、リュックの中からお菓子を出してチラつかせる。

「食べたい。ハリボーがいい。これ、このハリボー。監督にバレんうちに、はよ」

「監督、見てますよ」

　宮城が指差す方を見れば、監督がこちらを見ていた。

「あ、やばい」

　監督は無言でこちらにやってきて、Aの頭にチョップを落とす。

「いてっ」

「お菓子禁止やって言ったやろ。食おうとすんな」

「だって……」

　Aが言い訳しようとすると、監督はまたAの頭にチョップを落とした。そして宮城にお菓子をしまうように言う。

「はあ！？おかしい！」

　Aはそう言うと、頭を摩りながら練習に戻っていった。その後ろ姿を見ながら監督はため息をつく。

「お菓子だけにか…………フルーツやったら太らへんよな？」

「そうですね、甘いし。大丈夫です」

「明日からサロン入れといたって」

「はい」

「……あいつにはまだ頑張ってもらわなあかんからな」

　そんな監督の言葉を聞いたのは近くにいたコーチだけだった。