第2話 ページ4
「Aー」
「っぐ！？」
サロンで菓子を口いっぱいに頬張っていたAは、突然の声に驚いて菓子を喉に詰まらせた。
「ごめん」
颯一郎が申し訳なさそうにAの背中をさすって落ち着かせてやる。
「なに？」
颯一郎と目を合わせずにAはそう聞く。その声は少しだけ上擦っているようにも聞こえた。
「A、これ好きやろ？」
颯一郎がAの目の前に差し出したのは、今話題に上がっていたお菓子だった。
「え、なんで知ってんの？」
Aは目を丸くして颯一郎を見上げる。颯一郎はそんなAを愛おしそうに見下ろしていた。
「さっき広報さんが教えてくれた」
そう言って颯一郎はお菓子をAの手の上に乗せた。Aはそれを嬉しそうに見つめると、また口いっぱいに頬張った。
「んまい？」
そう問われてAは何度も首を縦に振った。リスのように頬をふくらませるAに颯一郎は思わず笑みを零した。
「ふぁふぃ、ふぁふぉふぁ」
「何言うてるか分からん」
「エイちゃん、ごっくんしなあかんよ」
由伸が揶揄うようにそう声を掛ければ、Aはごくんとお菓子を飲み込んだ。
「うまい、ありがとうな」
「エイちゃんがデレた！？」
「デレてへんわ！」
Aはそう叫んで、またお菓子を頬張った。由伸と颯一郎はそんなAを見て、顔を見合わせて笑った。
「エイちゃん、太んで」
「……」
Aは上目遣いで2人を睨むと、お茶を飲み干す。
「そんなこと言うんやったら、さっきのカロリー消費しに行ってくるわ」
Aはそう言って立ち上がる。
「え、もう行くん？」
「お菓子あるで？」
「いらん。監督に怒られる」
「じゃあ俺も行こっかな。A、トレーニングルーム行くやろ」
「まあ、」
まだ少しだけ颯一郎が怖いのか、Aは颯一郎と目を合わせずにそう答えた。
「じゃあ俺も行くわ」
由伸はそう言って立ち上がった。そしてAの背中をぽんと叩く。
「大丈夫、ゆっくり慣れてこうな」
「ん……」
Aはこくんと頷いて、由伸の横に並ぶ。
「そーいちはついてこんの？」
Aは首を傾げて由伸に問う。しかし、由伸は誤魔化すように笑って、そのまま歩き出した。
「……」
Aは由伸の背中を見て、不思議そうに眉を顰める。そして、首を傾げてその後ろをついて行く。
1人残された颯一郎は、
「可愛すぎ」
と呟いて、Aの後ろ姿をいつまでも見つめていた。
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作者名：usa426 | 作成日時：2023年11月1日 23時
