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「あ、由伸に上着返すん忘れてた」
思い出したかのようにAがそういうと、颯一郎はAの頬をつねった。
「いひゃい……ふぁぃふんふぇん!(痛い……何すんねん!)」
「なんでそういうこと言うんかなぁ!」
「ふぁ?はなふぇ!(は?離せ!)」
「上着は明日でいいやろ」
「まあ……」
そう言うAを包むようにして抱きしめると、ふあっとしたいい匂いの中に由伸の匂いが混じっている。なんだかそれがすごく癪に障るので、颯一郎はAの上着を剥ぎ取って、自分のを着せた。少し袖が余っていて、またそれが可愛い。
「身長差カップルってこういうことできるんよな〜」
と呟いていると
「誰がカップルやねん。カップルやとしたらそーいちと宇田川とか小木田のことやろ」
と強めのパンチが飛んでくる。颯一郎はそれを躱すこともせずに笑って受け止めた。
「あれはマブ。Aにはわからんやろうけどな」
「俺にもマブくらいおるしな。チームは違うけど」
「へえー?誰なん?」
「教えへん」
Aはそう言って笑うと、帰ろ、とだけ言って公園の街灯の中に歩き出そうとする。その後ろ姿はマウンドに上がる時を彷彿とさせるほど凛としていた。
「A」
颯一郎はそんなAの腕を掴んで引き寄せる。
「?」
「やっぱ寒いからくっついて帰ろ」
「は?」
Aが嫌そうな顔をしたのも束の間、颯一郎はAを抱きしめた。そしてそのまま歩き出す。
「ちょ、そーいち!歩きにくいって」
「ええやん別に」
「いや、でも……」
「なんやねん」
「……恥ずい」
Aはそう言って俯くと、顔を真っ赤に染めた。そんなAを見て颯一郎は笑う。
「別に知り合いおらんはずやし、大丈夫やって」
「いや、おる!」
「見せつけたったらいい」
「その思考がヤバい。なんでモテるんかの意味がわからへん」
「俺のオーラが出てるんやろ」
「ふは、なんやねんそれ」
静かな住宅街の中、2人の声だけが響く。この時間が永遠であればいいのにと、颯一郎は思いながらAの首元に顔を埋めた。
「くすぐったいからやめや」
Aはそう言って颯一郎の頭を押し退ける。しかしすぐにまた擦り寄ってきたので、諦めて好きなようにさせた。
颯一郎は自分の鼓動が早くなっていくのを感じながら、Aを抱きしめる手に力を込める。街灯に照らされた2人の影は、ぴったりとくっついていて、まるで1つになったかのように見えた。
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作者名:usa426 | 作成日時:2023年11月1日 23時