第10話 ページ27
「亮さん……！」
石川はAのことを技術的な面から精神的な面までサポートしてくれる先輩だった。
「A、家逆方向じゃない？どしたの？やなことでもあった？」
「……」
「A？」
石川は優しく笑うと、Aの頭を撫でた。そして手を引いて道の端まで誘導してくれる。
「酔っちゃった？」
「覚めました」
「うーん、そっか……お腹空いてる？どっか入ろ」
石川はそう言うと、Aの手を引いて近くの居酒屋に入った。
「何食べたい？何でもいいよ」
石川はメニューを広げてAに見せる。しかしAは首を横に振るだけで何も頼まなかった。
「なんかあった？」
石川がそう聞いてくるので、Aは少し迷った後口を開いた。
「……あの……俺、また逃げちゃったんすよ」
「？」
「さっき、飲みに行った帰りに、由伸とそーいちがどっちが俺を送ってくかでなんか言うてて、で、2人の間がピリついてもうて、俺のせいで」
「……」
「最近、よくあるんすよ。俺のせいで空気が悪くなるとか、そういうのがほんと、苦手で」
Aはそう言うと、俯いてしまう。石川は黙ってAの話を聞いていたが、しばらくして口を開いた。
「……A、顔あげなよ」
石川はそう言って笑うと、また頭を撫でた。そして優しく言う。
「Aは優しいね」
「……そんなことないっすよ」
「ううん、優しいよ」
石川はそう言って笑った後、少し考えるような仕草をした。そしてゆっくりと口を開く。
「Aはさ、人との関わり方とか距離感とかよくわかんないんだよね？」
「そんなことないっすよ。割とチームのみんなと上手くいってるって思うんすけど」
Aがそう言うと、石川はまた笑った。そして続ける。
「Aはさ、人との距離感掴むのが結構苦手そうに見えるけどな」
「え？」
「自分がどう思われてるかとか、相手が自分に何を求めてるのかとか、意外と鋭いけど、それ以外は鈍いね」
「……どういうことですか？」
Aがそう聞くと、石川は少し悲しそうな顔をした。しかしすぐに笑顔に戻って言う。
「Aはさ、人の顔色を伺うのが得意だよね？だから相手の気持ちに敏感だし、空気を読むのも上手い」
「……」
「でも、自分の気持ちを伝えるのは苦手でしょ？」
Aは黙り込む。石川の言う通りだ。だからいつも石川にメンタル面でもサポートしてもらっていた。
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作者名：usa426 | 作成日時：2023年11月1日 23時
