第8話 ページ22
それから2週間ほど過ぎた頃、ついにAの先発投手としての登板が叶う日がやってきた。
「あー、ヤバい。ヤバいっす」
「落ち着いて」
マウンドに上がったAは、ブルペンの時とは打って変わって緊張している様子だった。キャッチャーの若月がポンポンと背中を叩くが、それでも緊張は解れない。
「ワカさん、俺ヤバいかも。心臓バクバク言ってる」
「はいリラックス。初回からガンガン投げてこ」
「ういっす」
そう言ってAは投球練習を始める。しかしやはり緊張が勝るのか、ボールの勢いがない
。
「マジでヤバいくらい緊張してんじゃん。ほら、いつもどーり」
そう言って若月はボールを返した。Aはそれを受け取ると、もう一度投球練習を始めた。しかしボールの勢いは良いのだが、コースから大きく外れていってしまう。
「おい、そんなんで大丈夫か?」
「う〜……」
「ったく……」
若月は呆れてため息をつく。そしてキャッチャーボックスから出ていくと、Aの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「大丈夫、大丈夫だから。Aならできる。できる!」
「っでぇ!」
パン!と背中を叩く音が響く。Aは涙目で若月を見た。
「いってぇ……」
「まったく、緊張してたら出来るもんも出来ないよ。さっさと行ってこい」
「ワカさん……」
そう言って笑う若月に、Aは同じように笑いかける。そして大きく頷くとマウンドへと戻っていった。
「ふぅ……」
マウンドに立ち、深呼吸をする。そしてゆっくりとボールを放った。
「ストライク!」
キャッチャーミットに収まったボールを見て、Aはホッと息を吐く。それからまた2球目を投げ込んだ。すると今度もしっかりとストライクゾーンに入る。Aは若月からのサインに頷いて、3球目を放った。
「ストライク!バッターアウト!」
最後のバッターを三振に切って取ると、Aはマウンド上でガッツポーズをした。その前で若月が手を叩いている。
「ナイスピッチ」
「あざす!」
2人はハイタッチを交わすと、ベンチへと戻って行った。
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作者名:usa426 | 作成日時:2023年11月1日 23時