君との合言葉は (ページ20)

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「由伸」

「……」

　返事のない由伸の隣に腰を下ろすと、Aは優しく声をかけた。

「大丈夫やってさ。別にどこも折れてへん」

「……」

「由伸が気に病む必要なんてないで。俺なんかより由伸の方が心配やし」

　Aは由伸の頭を撫でる。するとゆっくりと顔を上げた由伸と目が合った。

「……ごめんな、A。俺のせいやんな」

「え？」

「だって、俺があんなことしたから……」

　Aは俯く由伸の頭をまた撫でてやる。すると今度は手を掴まれた。そのままギュッと握られる。

「ごめん、ほんまに。ごめん、俺……」

「もう謝らんでええって。気にしてへんし」

「でも、」

　由伸は今にも泣き出しそうな顔でAを見る。その瞳はゆらゆらと揺れていた。

「大丈夫やってば」

「でも、だって、A、」

「由伸、泣かんで？」

「A、Aっ、」

　由伸は幼児のようにAの名前を呼び続けている。彼の目からは今にも溢れ出しそうなほど涙が溜まっているように見えた。

「由伸」

　そう言ってAは由伸の手を握る。そしてその冷たい手を自分の頬に当てた。

「……」

　それからAは由伸のことを抱きしめる。胸がじくじくと痛むがそんなこと気にしていられない。

「俺は生きとるし、大丈夫やから」

　さすがに鼓動を聞いて安心したのか、由伸の目の揺れが小さくなった。

「Aが大怪我んなって、何ヶ月も野球できひんくなってたらどうしよ、って、このまま、病院から帰らんかったらって、」

「そんなことならんから大丈夫やで。ほら、練習戻りや」

　そう言ってAは笑うと、立ち上がる。そして由伸の背中をポンと叩いた。

「やだ」

「ええから。ほら、怒られんで」

　Aに促されて、渋々といった様子で立ち上がる由伸。Aはそんな由伸の頭をポンポンと叩くと、監督の元に歩き出した。