君との合言葉は (ページ17)

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「え……？あいつ俺にキスしたよな……？」

　Aはぶつぶつと言いながら廊下を歩いていく。そしてエレベーターに乗ると、1階へと降りていって、足早にマンションを出る。なぜか涙が勝手に出てきて、Aは慌てて袖口で拭った。

「なんで泣いとんの」

　Aはそう呟いて、行き先も決めずに歩き出した。その途中で、後ろから声をかけられる。

「A！待って！ごめん！」

「……そーいち」

　Aは足を止めて振り返る。そこには息を切らした颯一郎の姿があった。

「ごめん、ほんまに……俺、どうかしてた……」

　Aは何も言わずに俯く。すると颯一郎はそんなAの手を取った。そしてぎゅっと握ると、そのまま歩き出す。

「寒いから戻ろう。風邪ひいちゃう」

　昼は暑いとはいえ、早朝になれば少し肌寒い。Aは颯一郎の言葉に小さく頷いて、大人しく家へと戻った。

「はい、お茶」

「……ありがと」

　そう言ってAはコップを受け取ると、一口飲む。そして大きくため息をついた。

「ごめん、勝手にキスして」

「……なんでそんなことしたん？」

　Aはコップを置いて、颯一郎に尋ねる。すると颯一郎は困ったように頭を掻いた。

「なんかこう……Aが可愛すぎて我慢できんかってん」

「……意味わからん」

　Aはそう言ってため息をつく。そしてまたお茶を一口飲んだ。

「そうやって彼女とか作っとるん？」

「そんなんじゃない、絶対違う」

「ふーん……」

　Aは興味なさそうに相槌を打つ。颯一郎はそんなAの隣に座って、そっと肩を抱いた。そして優しく頭を撫でる。

「そーいちって誰にでもこういうことするん？」

「しない」

　即答する颯一郎に、Aは疑いの眼差しを向ける。しかし颯一郎は嘘を言っている様子もなく、ただ黙ってAのことを見つめていた。

「……」

「A。ごめん」

　颯一郎はそう言ってAのことを抱きしめる。Aはそんな颯一郎の背中に腕を回すと、ぎゅっと力を込めた。

「別に……」

「ありがとうな」

　そう言って颯一郎は優しく微笑む。その笑顔は、太陽をそのまま映したかのように明るくて、Aは眩しそうに目を細めた。

「そーいち」

「ん？」

「練習、行こ」

　立ち上がって準備をするA。その姿がなぜか遠く見えて、颯一郎はAの腕を掴んだ。なぜか離したくない。そう思ってしまった。

「どしたん？」

「……いや、なんでもない」

　そう言って颯一郎はAから離れる。そしていつものように服を着替え始めた。