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「こんな感じかな。あ、英河ちょっと残って」
「はい？」
ミーティングが終わって、監督に呼び止められる。Aは首を傾げながら監督の方へと向かった。
「先発、してみるか？」
「へ？」
「先発。やってみないか」
監督はそう言ってAを見つめる。Aはそんな監督に、少し考える素振りを見せた。
「なんでですか？」
「なんか最近調子いいし、そろそろ経験積んどいた方がいいんじゃないかなって」
監督のその言葉に、Aは少しだけ考え込む。確かにここ数試合は調子がいいし、このままの調子でいけば今シーズンはキャリアハイを残せるかもしれない。しかし、本当に自分でいいのかと不安になる。
「お前なら出来るよ」
監督はそう言ってAの肩を叩く。Aはそんな監督の言葉に、ゆっくりと頷いた。
「……次、ですよね。やってみます」
「頼むぞ」
「とりあえず今日の試合じゃないすか？」
「そうだな。ほら、ブルペン行ってこい」
「はーい！」
Aはそう言ってブルペンへと駆け出した。
「あちゃー……」
今日が先発の由伸は5回4失点と珍しいレベルで調子を崩していた。
「英河。次」
「はい」
Aはキャップを被り直すと、グラウンドへ出ていった。ドームの照明に目を細めて、マウンドへと駆け上がる。
「A、落ち着いてこ。今日の球、どんな感じ？」
「ツーシーム以外、全部仕上がってます」
キャッチャーの若月にそう答えて、Aは球をポンポンと上に放り投げる。
「英河ー！」
「Aー！」
ドームの中で、たくさんの声がAに向けて飛ぶ。Aはその声に応えるように、大きく足を踏み出した。
「っ！」
振りかぶって投げたボールは、綺麗にキャッチャーミットに収まる。キャッチャーマスク越しに見える若月の顔は、驚きと嬉しさが混ざったような複雑な表情をしていた。
ワンアウト一、三塁。下手にすれば同点に追いつかれてしまう。そんな場面でも、相手チームの応援歌を口ずさんでしまうのは、Aが野球バカだからだろうか。
「っし」
小さく呟いて、サインを覗き込む。そして頷いてから投球動作に入った。
「ストライク！」
アウトコース低めに投げられたボールは、綺麗にミットに収まる。それを見届けて、Aは小さくガッツポーズをした。
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作者名：usa426 | 作成日時：2023年11月1日 23時
