第1話 ページ2
煌々と蛍光灯に照らされた廊下に2人の人物が黒く影を映していた。
「ほんまにやるんすか」
「英ちゃん本当人気だから」
「いやいや、絶対他の人の方がいいって。監督とか」
定点カメラの前で英河Aは子供のように駄々をこねていた。
「これやったら英ちゃんの好きなお菓子、サロンに入れとくから」
「マジすか！？絶対っすよ！」
瞳を目一杯開いて、Aはそう言う。人気のない廊下ではその声はよく響いた。
「じゃあ、お菓子お願いします！」
Aは花が咲いたような笑顔を浮かべて、スキップをしながらロッカールームへと戻って行った。
定点カメラの下には
『英河A選手ってどんな人？』と張り紙がされており、廊下を通りがかった選手たちがそれに答えていくという人気企画にAは参加していた。
「お、英ちゃんやーん」
最初に通りがかった杉本が嬉しそうに定点カメラに歩いていく。
「英ちゃんはほんま人のことよう見てる」
杉本はにこやかに笑いながらAのことを褒めた。
「そやな、人懐っこいし」
杉本の言葉に相槌を打っていたのは、福田だった。二軍に落とされても、腐らずに努力を続けてきたAを福田はよく見ていた。
「お、ラオウさんや」
Aがちょうどロッカーから出てきて、福田と杉本の方に小走りで近づいてくる。
「あ、きたきた」
と声を弾ませて杉本が言う。
「えー、何言ったんすか？」
そうAが言えば、2人は軽くAの頭を小突いて行ってしまった。
「英ちゃん、これ英ちゃん居たら成り立たないから」
2人が行ってからもカメラの横に居座っているAに広報が声を掛ける。
「なんでっすか？」
Aはカメラの前に座って、小首を傾げる。その幼い仕草に広報は苦笑した。
「この企画、本人の前じゃ言いにくいでしょ」
「あー、すいません、俺ちょっとおやつ食ってきます！」
そう言ってAは再び元気に駆け出していった。
「ちょ、転ぶよ！」
広報がそう叫べば、Aは立ち止まって、笑顔で手を振っていた。
「超元気じゃん」
広報はそう呟いて、苦笑いを浮かべる。そして再びカメラを回し始めた。
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作者名：usa426 | 作成日時：2023年11月1日 23時
