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「……俺の強みねえ……」
 ベンチに座って自分の手を見つめながら自問自答してみる。球速はメジャーに行ってしまったナミ――藤浪晋太郎ほど速くないし、9回まで投げられるほどスタミナもない。何気なく手を握ったり開いたりしていると、手を開いたタイミングで不意にピースが目の前に現れた。顔を上げると中野拓夢――タクがニコリと笑っていた。
「どうしたんですか?珍しく下向いて」
 しゃがんで目線を合わせて聞いてくる。Aはタクの帽子と目を合わせながら、なるべく重く聞こえないように声を弾ませた。
「WBCどうしよっかなーって思ってな」
「え?出ますよね?」
「…………」
「出ないんですか?」
「……まだ迷ってる」
 そう言ってまた手をグッパする。すると、今度はその手にタクの手が伸びてきた。そして、指先だけを掴むように握られた。
「僕はAくんと一緒に、スタジアムに立ってみたいですけどね。マウンドに立ったら、安心感がすごいんですよ。やから、一緒にやりましょ?」
 それだけ言うとパッと手が離された。そのまま立ち上がって着替え始めるタクを見ながら、Aも立ち上がる。
 守備が安心するということは、「打たせない」という信頼があるからだろう。それはフォアボールが少ないということに加えて、三振を取れるということだ。それが、自分の強みかもしれない。さらにWBCということで守備も攻撃も一流の選手たちが揃っている。その中で自分のピッチングがどれだけ通用するか、試してみたい。そうAは思っていた。となると、答えは一つしかなかった。
 
 翌日、Aはグラウンドに出てくると、誰かが岡田監督と話していた。
「うお、栗山監督や……」
 思わず漏れ出た独り言を聞き取ったのか、栗山監督はこちらを振り向いた。
「おはよう。成吉くん」
「おはようございます!」
「で、答えは出たのかな?」
「……精一杯、頑張らせていただきたいです。よろしくお願いします!」
 Aの言葉を聞いて、栗山監督は満足げにうなずいた。
「うん。期待してるよ。ナルちゃん」
「……ナル……ちゃん?」
「うん、ナルちゃん。次会うのは宮崎キャンプかな?よろしくね!」
「はい!ありがとうございます!失礼します!」
 Aは深く一礼してから走り出す。キャンプまであと数ヶ月。後に「虎嘯風生」と呼ばれることをAはまだ、知らなかった。


【補足】
虎嘯風生(こしょうふうしょう): 優れた才能を持つ人が機会を得て活躍すること。

ep2-宮崎キャンプ初日-→←ep1-最初-



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設定タグ:男主 , 中野拓夢 , 侍ジャパン   
作品ジャンル:恋愛
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てるてる坊主(プロフ) - ザキさん最高w更新待ってます! (7月27日 14時) (レス) @page46 id: 7989449218 (このIDを非表示/違反報告)
えど(プロフ) - 雰囲気すごく好きです!頑張ってください! (7月17日 3時) (レス) id: 67d2f217ce (このIDを非表示/違反報告)
てるてる坊主 - 中野君です!返信ありがとうございます! (7月15日 15時) (レス) id: 7989449218 (このIDを非表示/違反報告)
usa(プロフ) - てるてる坊主さん» ありがとうございます!!!もしよければその推しさんのお名前を教えてくださらないでしょうか…!短編とかのネタにしたいです! (7月15日 14時) (レス) id: 15f5f97ad6 (このIDを非表示/違反報告)
てるてる坊主 - 初コメ失礼します。僕の推しが出ててびっくりしてるうえに尊いです。これからも頑張ってください!応援しています! (7月15日 12時) (レス) id: 7989449218 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:usa | 作成日時:2023年7月5日 12時

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