ep19.5 ページ9
リハビリもそこそこ順調に進んでいき、軽いトレーニングならしてもいいと医者に許可されたのが2週間後のことだった。ほぼ予定通りに治ったので、これで薫に怒られずに済む……なんてことをAは考えていた。
「ただいまー」
「おかえり！どう？足の調子は」
「うん、もう大丈夫そう」
「よかった」
そんな会話をしながら部屋着に着替えて夕食の準備を始める。2人の生活にも慣れて、お互いがお互いのことを尊重して生活している。喧嘩もせず、穏やかな日々が過ぎていった。
「今日のメニューは？」
「薫くんと一緒にこれ作りたいなって」
「いいじゃん」
Aは栄養士顔負けのメニュー表を見せる。そこにはAのこだわりが詰め込まれていて、薫はそれに苦笑しつつも紙を受け取りながら冷蔵庫から材料を取り出した。
「これ、グラム単位で計算されてるのすごいね」
「ちっちゃい頃からしてたから、慣れてるだけだよ」
「へえ」
薫は慣れた手つきで材料を分けていく。今日はチキンのトマト煮を作ることにした。チキンの下処理をしていると、隣で野菜を切っていた薫が口を開く。
「この切り方で合ってる？」
「うん、完璧」
「やった、Aに褒められたら嬉しいな」
薫が褒められて喜ぶ姿も、もう見慣れたものだ。だが、最近はこうしてたまに不意打ちで食らってしまうのでAはそのたびにドキドキしてしまう。本人にはもちろん内緒だ。
「なんかさ」
「うん？」
「こういうの楽しいね」
「……うん！」
2人で笑いながら料理を作る。その時間がとても幸せで、その幸せを噛み締めるようにAは彼の手を見つめる。
「なに」
「ううん、なんでもないよ」
「……気になるんだけど」
薫はそう言いながらも鍋の中身をかき混ぜている。そんな彼に気づかれないようAは小さく笑った。幸せだな、と感じながらフライパンに火をつけるのだった。
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作者名：usa | 作成日時：2024年2月3日 8時
