ep19 ページ5
「ねぇ、A」
「なに」
「なんでこっち見てくれないの。もしかして俺のこと嫌いになった？」
「……違う」
逃げるようにリビングへ行き、純也の連絡先を探す。
『また、ケンカしちゃいました』
『こっち来る？』
『部屋、1人用じゃないんですか』
『間違えてダブル取ってたから大丈夫』
『すみません、今日はお願いします』
『わかった』
そう返事が来た瞬間、Aは立ち上がって荷物をまとめはじめる。
「ちょっとA！どこ行くの？」
「純也くんのホテルに泊めてもらう。頭冷やした方がいいでしょ」
「なんで？おかしいじゃん、ねえ！」
「今の薫くんに何言われてもイライラしちゃうから言ってるんだよ！しつこい！」
Aはそれだけ言い残すとそのまま家を出た。雨は降り続いており、傘をさして歩き始める。1人になりたいという一心で純也が待っているであろうホテルへと向かうのだった。
『もうすぐ着きます』
『了解』
5分ほど歩いたところで目的の建物が見えてくる。その中に入り、部屋へと向かう。コンコンとドアをノックすればガチャリと鍵の開く音が聞こえ、純也が顔を覗かせた。
「ちゃんと仲直り出来た？」
「まだ出来てない」
「……とりあえず中入りなよ」
2人でソファに腰掛け、テレビをつける。海外の番組はよく分からないがなんとなくぼんやりと見ていた。その間も彼は何も言わずにAを見守るかのようにこちらを見つめているだけで何も言ってこない。それが逆に有難くてAはそっと口を開いた。
「薫くんに酷いこと言っちゃった……」
「……」
「心配してくれてんのに、しつこいって。俺が怪我した時も、真っ先に駆け寄ってくれたり、病院の送り迎えもしてくれたのに」
「……」
「最低、俺」
Aの目にはみるみるうちに涙が溜まっていく。鼻の奥がツンと痛くなって、目尻から頬にかけて生温かいものが流れ落ちた。一定の間隔で落ちてくる涙は、まるでAの心情を表しているかのようで胸が苦しくなる。
「薫くん……かおるくん……！」
Aはソファの上で膝を抱えて丸くなり、肩を震わせて泣きじゃくった。その様子を黙って見ていた純也だったが、ふと立ち上がりどこかへ行ってしまう。だがすぐに戻ってきた彼の手にはタオルが握られていた。それをそっと差し出され受け取ると、涙を拭って鼻に押し当てる。しばらく経ってやっと落ち着いた頃を見計らってか、隣に座っていた純也が口を開いた。
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作者名：usa | 作成日時：2024年2月3日 8時
