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「乗って」
そう言って純也が助手席の扉を開けてくれたので、Aはそのまま乗り込んだ。そしてシートに身体を沈めるとふぅと息を吐く。
「A、どこ行ってたの」
横からは薫の声が聞こえるが、Aは顔を背けてしまう。この期に及んで強がる自分に嫌気が差しながらも、意地でも謝るもんかと謎のプライドが邪魔をしていた。
「とりあえず早く帰ろう」
車はどんどん進み、見慣れた街へと帰っていく。車の中では誰も話さず静かな空気が流れていた。普段ならラジオや音楽を聴きながら帰るのだが、今はそんな気にもなれない。そんな中、車内はずっと無言で過ぎていったのだった。
「……純也くんと何してたの」
家に帰り着き、玄関に入った瞬間薫からそう問われる。だがAは何も言わずに黙りこくった。そんな彼に痺れを切らしたのだろうか、薫は舌打ちをするとAの腕を強引に掴む。
「いっ……！」
突然のことにびっくりして思わず声を出してしまったが、それに構わず薫はAを引っ張って、寝室のドアを開けると中に入った。そしてベッドの縁に彼を座らせると目の前で仁王立ちする。
「なんで黙ってるの」
「……何も言うことないからだよ」
「あのさあ、なんでそんなに頑固になってんの。怪我したんだったらしたで受け入れなよ。もう22でしょ？」
「……」
「だから子どもっぽいって言われるんだよ」
薫の言葉にカチンとくる。いつもだったら笑って流すところだが、今はどうしてもムキになってしまった。いくら幼馴染とはいえ、こちらの気持ちを考えずにずかずかと心の中に踏み入られるのは良い気がしない。
「薫くんにはわかんないよ」
「そりゃそうでしょ、今までずっと一緒にいたわけじゃないんだし」
「そういうことじゃない！」
思わず大きな声が出てしまい自分でも驚いたが、それ以上に薫の目が大きく見開いた。彼もこんな声を出すのは初めて聞いたのだろう。だが驚いているのはAも同じだ。こんなに声を荒らげるなんて初めてで、少しだけ自分自身に嫌気がさした。
「……ごめん、」
「俺も言いすぎた、ごめん」
気まずい空気が流れる中、お互い謝りあって気まずさから目をそらす。なんでこんなにも自分は彼に執着しているのか分からなくて、理解もできなかった。彼とは何年も離れていたのになぜ今更こんなに彼に対して苛立っているのだろう。
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作者名：usa | 作成日時：2024年2月3日 8時
