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「離して」
「……やだ、離さない」
「なんで？」
薫は少し逡巡した後、Aの腕を離して真っ直ぐ彼の目を見つめる。薫の目は澄んでいて、何かの覚悟が決まったような顔をしていた。
「Aのことが、好きとか愛してるとかそういうレベルじゃないほど大切だから」
「え？」
「俺は、Aのこと守りたいし、幸せにしたいと思ってる。俺の横にずっといてほしい」
「え……」
「でもAにはそんなこと強制できない。Aのこと傷つけたくないから。でも、もしそれでAが傷ついてしまうなら……」
薫はそこで言葉を切った。そして小さく深呼吸をしてから再び話し始める。彼の目は真剣そのもので、視線だけで射抜かれるような感覚を覚えた。
「俺は二度とAに会わない」
「か、おるくん？」
「Aがそう望むなら俺はAの前から消えるよ。それでいい？」
薫の目は本気だった。冗談を言っている目ではないことはすぐにわかった。それでも、すんなりと受け入れられない自分がいる。Aは口を開こうとするがうまく言葉が出てこなかった。その代わりに涙が頬を伝う。
「なんで泣くの、もう」
「だ、って、薫くんが、おれのこと好きって、」
「だから俺はずっとAのこと好きだって」
薫は呆れたように笑う。そしてそのままAのことを抱きしめた。久しぶりに感じる温もりに、今度は安堵から涙が溢れてくる。それを見られたくなくて、Aは薫の胸に顔を埋めた。
「Aは、俺のこと好き？」
「おれもずっと好きだよ、薫くんのこと……」
「うん」
「めっちゃ嫉妬してたし、薫くんのこと誰にも渡したくない」
「うん、知ってる」
「碧くんが薫くんと喋るたびに死にそうなくらい嫉妬してた」
「うん、それも知ってる」
薫はAの言葉をひとつひとつ丁寧に受け止めながら、優しく髪を撫でてくれる。その手つきが心地よくて思わず身を委ねた。ずっとこうしていたいとさえ思ってしまうほど心地よい時間だった。しばらくすると、雪がちらつき始める。
「は、雪……」
「ああ、ホワイトクリスマスだね」
空を見上げると、はらはらと舞い落ちる雪が視界に入る。とても幻想的で美しくて、思わず見惚れてしまった。薫はそんなAを愛おしげに眺めながら、そっと彼の頬を両手で包み込む。
「A、目閉じて」
「うん……」
薫の言葉に従い、Aはゆっくりと目を閉じる。するとすぐに柔らかいものが唇に重なった。Aのファーストキスは、温かくて甘いものだった。
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作者名：usa | 作成日時：2024年2月3日 8時
