ep25 ページ28
少し寝ていたようだ。外はすっかり暗くなっていて、時計を見ると20時を回っていた。薫はどうしただろうか、とリビングに行くとソファで碧と座っていた。
「……なんで俺じゃダメなんですか、薫さん！俺でいいでしょ、薫さんのこと全部受け入れるし、幸せにします」
「ちょっと碧、何言って……」
「キスしてください。俺もう子供じゃないから」
碧は挑発するようにして自分の唇を指さす。薫はそれに答えるように顔を近付けていった。最悪の展開を見たくなくて、Aは玄関から飛び出した。
「Aっ！」
後ろから薫の声が聞こえたが、振り返らずに走り続ける。行くあてなんてないが、今はただあの場所から遠ざかりたかった。サッカーで培った足の速さを活かして、Aは無我夢中で走った。どれくらい走っただろう、息も絶え絶えになってようやく足を止めたのは大きな公園の前だった。辺りはもう真っ暗で、人通りも少ない。ベンチに座って呼吸を整えていると、薫が追いかけてきているのが見えた。
「っ、やっと、見つけた……はあ、」
「ついてこないで」
「それは無理」
薫は息を整えながらAの隣に座った。2人の間に沈黙が流れる。しばらくして口を開いたのは薫だった。彼はAの手を取りながら話し始める。
「A、今回のことは本当にごめん。Aのこと、傷つけて、嫌な思いさせた。でも、誤解してるみたいだから言うけど、俺は碧のこと好きじゃないよ」
「……」
「信じてもらえないかもしれないけど」
薫の真剣な眼差しに、Aは目を逸らす。それでも薫が手を離そうとしないので仕方なく口を開いた。
「じゃあなんでキスしようとしたの」
「それは……でも俺してないよ」
「……でも、2人で買い物してたじゃん。俺見たもん、2人が楽しそうに歩いてるところ」
「……」
「好きなの？碧くんのこと」
「違う！」
「じゃあなんで俺に思わせぶりなことばっかしてくんの、っ、なんで俺が指輪渡したら受け取ったの、」
「それは……」
薫は俯いてしまった。そんな彼を見てAはため息をつく。そしてそのまま立ち上がった。
「もういい、帰る」
「待って！」
薫がAの手首を掴む。その手を振り払おうとしても、強く掴まれているためできなかった。そのまま薫の方に引き寄せられるが、Aはそれすらも拒否する。
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作者名：usa | 作成日時：2024年2月3日 8時
