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「待って」
「なに？」
「行かないで」
「……なんで？もう話すことないじゃん」
薫は何か言いたげにしていたが、結局何も言わなかった。ただ黙ってAの腕を握っているだけだ。その沈黙に耐えられず先に口を開いたのはAの方だった。
「今の薫くんは、俺が知ってる薫くんじゃない。嫌い、嫌いだから」
「きら、い？」
「そう、嫌い、大っ嫌い、薫くんなんて、っ、嫌い」
言いながら、なぜか鼻の奥がツンとしてきた。必死に耐えようとするものの、それはどんどん込み上げてくる。どうして自分が泣いているのかわからなかった。悲しくもなんともないはずなのに、涙は止まってくれないのだ。薫はそんなAを静かに抱きしめ、背中を撫でる。
「ごめん」
「嫌いって言ってんじゃん！っ、離してよ、」
「嫌だ、離したくない」
いつもは安心する薫の体温も、今はAを苦しめるものでしかない。薫はAの髪を撫で、そのまま頬に手を滑らせる。涙の跡を優しくなぞられ、Aは思わず身体をすくめた。
「触らないで」
「ごめん」
「……っ、嫌いって言ってるじゃん！嫌いなんだよ！」
「うん」
「出てってよ、部屋から」
「……」
「出てって。」
有無を言わさぬ声で言うと、薫は素直に部屋から出ていった。1人になった部屋でAは膝を抱えて蹲る。
「っ、うっ……ひっく……」
嗚咽が漏れる。こうやって泣くのも久しぶりだ。あの頃はいつも薫にしがみついて泣いていたっけ、なんてことをぼんやり思い出していた。いつだってAのそばには薫がいて、薫のそばにはAがいたのに。しばらく泣いていると、ドアがコンコンとノックされた。
「……A、ここに紅茶置いとくね」
「……っ、」
「Aの好きなやつ買ってきた」
薫はそう言って部屋から出ていった。残されたAは机の上に置かれたカップを見つめる。それを一口飲んでみると、甘くて優しい味がした。懐かしい味だ、昔は2人でよく飲んでいたものだ。自然と涙が溢れてくるが、もう泣くのはこれで最後にしよう。そう心に決めてから、Aはゆっくりと立ち上がった。
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作者名：usa | 作成日時：2024年2月3日 8時
