ep24 ページ26
翌日、Aは薫に見つからないようにこっそりと家に帰ってきた。この時間、薫と碧は観光をしていていないはずだ。碧のSNSには2人仲良く買い物をしている写真が載っていた。とりあえず洗濯をしたり、家の掃除をしたりしているとあっという間に夕方になる。もうすぐ、帰ってきてしまう。
「ただいま」
薫の声だ。Aは慌てて玄関へ向かった。そこには予想通り、薫と碧がいる。2人はAの姿を見て、一瞬固まったがすぐに笑顔を作った。
「……おかえり」
「ただいま、A。昨日はごめんね？」
「ううん、別に」
薫は何か言いたげな顔をしていたが、それ以上何も言わなかった。そのままリビングへ入っていくので慌ててついていくと、彼はソファに腰掛ける。その隣に碧も座ったので、必然的にAは一人余った。もういいや、と思いAは自室に籠る。ここだけはAのことを受け入れてくれている気がして、とても居心地がいい。ベッドに横になって目を閉じると、律の体温を思い出した。
「……」
不意にドアがノックされる。誰だろうと思うが、こんなことをするのは1人しかいない。
「はい、」
「A」
「なに」
「入っていい？」
ああ、やっぱり。薫だ。Aは返事をしなかったが、彼は勝手に部屋に入ってくる。そのままAのいるベッドまでやってくると、そこに腰掛けた。
「……何しに来たの？」
「話がしたくて」
「俺はない」
「俺はあるよ」
2人の間に沈黙が流れる。先にそれを破ったのは薫だった。彼は少し躊躇ったあと口を開く。
「まずはごめん、今日は。碧がどうしても2人で買い物したいって言うから、断っても聞かないし……それに、碧とは何もないから。信じて欲しい」
「……」
薫は真剣な顔つきでAを見つめた。しかし、Aはそれに対して何も答えない。ただじっと俯いているだけだ。唇を引き結んで、何も喋らない。
「俺が信じられると思う？」
「……え」
Aが小さな声でそう問うと、薫は驚いたように目を見開いた。そしてそのまま俯いてしまう。まるで何かを恐れているようにも見えた。しばらくしてから、ようやく薫が口を開く。その声は少しだけ震えていた。
「信じて欲しい。本当に何もない」
「……いいよ、もう」
Aは深いため息をつくと、ベッドから下りようとする。しかし薫はそれを許さなかった。ぎゅっと強く腕を掴んでくる。その力強さに驚いて、Aは思わず顔を上げた。
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作者名：usa | 作成日時：2024年2月3日 8時
