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律が泊まっているホテルはそこまで大きくはなかったけれど、清潔感のある綺麗な部屋だった。荷物を床に置いて一息つくと、律がマグカップを持ってやってくる。
「荷物ここ置いとくで」
「あ、ありがとう」
Aはベッドの端に腰掛けてため息をついた。その様子を隣で見ていた律はAの背中をトントンと叩いてくれる。昔から、彼が自分を慰めるときは決まってこうしてくれた。
「律は優しいよね」
「ん？なにが？」
「ううん、なんでもない」
Aは小さく微笑んでからマグカップに口をつけた。温かい紅茶が体の中を温めてくれる。律は自分の分のマグカップにも同じものを注ぎ、二人でそれを啜った。二人の間に流れる沈黙を破るように、Aが口を開く。
「ありがとうね。俺のワガママ聞いてくれて」
「ええよ、俺も一人は寂しかったし」
「……」
「ナルはさ、なんで薫くんのこと好きなん？」
「え、なんでって……そりゃあ」
「俺さ、ユースの時ずっとナルのこと好きやったで」
律はまっすぐにAの目を見て話す。なんだか気恥ずかしくてAは視線を逸らしてしまった。律が自分を好きだなんて知らなかった。だからどう反応していいのかわからないのだ。
「……そうなの？」
「うん。でもナルには薫くんがいるし、俺もゲイってわけやなかったから諦めよって思ててたんやけど……やっぱ無理やってん。毎日顔見とったらな」
「……」
「正直言って、薫くんより俺の方がナルのこと大事にできると思う。チームは違うけど、絶対ほったらかしたりせえへんし、オフシーズンは毎日一緒におるし」
「うん……」
「それでも、ナルは薫くんのこと好きなんやろ？」
「……うん。ごめんなさい」
律はじっとAを見つめていたが、ふっと微笑んでAの頭をくしゃりと撫でた。そしてそのままベッドに倒れ込むと、横になって天井を見上げる。
「まあええわ、今はな。とりあえず俺もまだ諦めたわけちゃうから」
「え……」
「俺はずっとナルのこと好きやで。それだけは覚えとってな」
「……それ反則じゃん、」
今までピンと張り詰めていた何かが、プツリと切れて涙が溢れる。律は優しくAの頭を抱き寄せると、自分の肩口に顔を押し付けさせた。
「好きなだけ泣いてええよ」
「うっ……っ、ひっく……」
律のシャツを濡らして泣くAを、彼は静かに抱きしめてくれる。どこまでいっても、彼はAに優しかった。
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作者名：usa | 作成日時：2024年2月3日 8時
