ep23 ページ21
代表期間も終わり、チームに帰ってきたAはスタメンに入って試合に出場していた。
「"ナルはクリスマスに予定ある？"」
「"いや、別に。俺は家でゆっくりしたいかな"」
試合後、いつものようにチームメイトと話しながらロッカールームへの廊下を歩く。
「"カオルと一緒に住んでんだろ？プレゼント交換とかしないのか？"」
「"え、"」
確かに。今はまだルームメイトとはいえ、クリスマスなどの行事は大切にしたい。マーケットなどもあるようだし、誘ってみようかなとAは思っていた。
「"ま、考えとく"」
「"そうか、またな！"」
「"バイバイ！"」
チームメイトに挨拶を返してから、Aもリュックを持つ。今日帰ったら早速、プレゼント交換の話を出してみようと思いながら、駐車場へと向かっていった。
「ただいまー」
家に帰ると、見慣れないスーツケースが玄関に置いてあった。これは碧が使っていたものと似ているなと思いながら、Aは靴を脱ぐ。
「おかえり」
「ただいま。碧くん来てるの？」
「うん、来てるよ」
「何しに？」
「案内して欲しいーって」
「へえ」
どうせクリスマスを好きな人と過ごしたいというのが魂胆だろう。しかし肝心の碧が見えない。
「碧くんは？」
「俺の部屋」
「へえ、」
手の中でペットボトルがグシャリと音を立てる。Aは自分の中にある黒いものに気づかないフリをしながら自室へと入った。どうせ薫は碧に付きっきりで、しばらく相手してもらえないんだろうなあとぼんやり考える。しかし家に帰ったら碧が薫とイチャついている場面を嫌でも目にしないとならない。薬指に光る指輪も、今だけは輝きを失っているように思えた。
「あれ、ここ誰の部屋ですか、薫さん」
「Aの部屋」
ドアの向こうでそんな会話が聞こえてくる。二人でルームツアーでもしているのだろう。Aは息を大きく吸って吐いて、気分を落ち着けてから部屋を出た。
「薫くん、俺ちょっと外出てくるね。二人でゆっくりしといてよ」
「え、ああ」
Aは車の鍵と貴重品だけを持って、玄関を出る。外はとっぷりと日が暮れていた。Aは鍵を回しながら歩き出す。クリスマスのマーケットがやっている広場まで、少し距離があった。駐車場に停めてある車に乗り込んで、ハンドルに額を押しつける。
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作者名：usa | 作成日時：2024年2月3日 8時
