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しばらくすると薫が目を覚ました。顔色はまだ悪いままである。熱を測ると37度2分と表示されていた。まだ少し高いがさっきよりは落ち着いているように感じる。
「大丈夫？」
「うん……」
「何か食べれそう？」
「んー」
彼はしばらく考え込んでいたが、やがて首を横に振った。食欲がないのだろうと思い、とりあえず冷蔵庫から水を取り出して差し出すと少しずつ飲み始める。その様子を見守りながらAは薫の手を取った。そして自分の両手で包み込むようにして冷やす。
「冷たいでしょ」
「うん……」
薫はそう答えると目を閉じてしまった。眠ったのだろうかと思っていると、しばらくしてからゆっくりと目を開ける。
「手、握ってて」
そう言って彼は弱々しく笑った。そんな彼を安心させるように微笑むと、そのまま優しく手を握る。彼の大きな手が、今だけは子供のように頼りなく見えた。
二日後、薫の体調はすっかり良くなった。まだ完全ではないようだが、熱も下がって普通に動けるようになっていた。
「大丈夫？」
「うん、ありがと」
ふわりと笑った薫を見てAもほっとする。顔色もかなり良くなっていた。
「でも無理しないでね」
「わかってるよ」
2人並んでソファに座ってテレビを見る。こうしてのんびりと過ごす時間は久しぶりかもしれない。お互いトレーニングや練習に追われている日々が続いていたので、たまにはこういうのもいいなと思った。
「薫くんさ、今度お散歩行こうよ」
「うん、行きたい」
「あと海にも行きたい」
「いいね」
そんなことを話しているうちにもう夕方になっていた。そろそろ夕飯の支度をしないと、と立ち上がった時、ふとあることを思い出した。
「そうだ、薫くん」
「ん？」
「これ」
そう言って彼に小さな箱を差し出す。不思議そうに首を傾げながらも受け取ってくれたのでそのまま渡した。彼は不思議そうな顔のまま中身を取り出すと目を見開く。中にはシルバーリングが光っていた。Aは照れ臭くなって俯く。すると薫は優しく微笑んでくれた。
「結婚指輪みたいだね」
「……バカにしてるでしょ」
「違うよ」
「普段使い、できるかなって。別にそんな、特別な意味があるわけじゃないけど、ほら、こういうのも大事かなって思って」
「A」
名前を呼ばれて顔を上げると、彼は嬉しそうに微笑んでいた。その笑顔を見た瞬間に心臓が高鳴る。鼓動がどんどん速くなり息苦しくなった。
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作者名：usa | 作成日時：2024年2月3日 8時
