ep22 ページ18
「薫くーん、」
ある秋の朝、なかなか起きてこない薫を部屋まで起こしに行くと彼はまだ寝ていた。この時間には必ず起きているのにおかしいなと思いつつも声をかける。すると彼はゆっくりと目を開けた。なんだかだるそうにしているように見える。
「ん……」
「おはよ」
「うん」
「しんどい？大丈夫？」
「……頭痛いかも」
彼はそう言うと再び布団に潜ってしまった。Aは心配になって慌ててリビングへ行くと、体温計を取り出して薫の元へ戻る。いやいやと首を振る薫を宥めつつなんとか体温を測ると、38度5分という表示が見えた。
「熱じゃん」
「うん……」
「病院行く？」
「行かない。寝てれば治る」
「ほんとに大丈夫？」
「うん」
そう言う薫の顔色は真っ青だった。心配になってじっと見つめると、彼は困ったように笑って頭を撫でてくれる。その優しさにほっとしながらも不安が募っていく一方だった。しばらく様子を見ることにしたものの、明らかに悪化しているような気がする。額に冷却シートを貼ってあげながら、Aは小さくため息をついた。するとそれに気づいたのか薫が口を開く。
「ごめんね」
「え？」
「せっかく代表選ばれてたのに、辞退させちゃって」
「いいよ全然。薫くんの方が大事だし」
「ふふ、嬉しいな」
そう言って彼は力なく笑った。熱のせいか少し幼く見える表情にどきりとする。それを誤魔化すように立ち上がってキッチンへ向かった。
「何か食べたいものある？」
「……Aのお粥」
「わかった。寝ててよ？」
「うん」
素直に頷いてくれたので安心して料理を始める。とはいえ、うまく作れるか心配ではあったが、なんとか作ることができた。
「薫くん、出来たよ」
「ん……」
ゆっくりと身体を起こすと、彼は緩慢な動きでレンゲを手に取った。そしてお粥を口に運ぶとそのまま動きを止めてしまう。美味しくなかったのだろうかと思って不安に思っていると、やがて彼は口を開いた。
「美味しい」
「ほんとに？」
「うん」
そう言われてほっと息をつく。それからしばらく黙々と食べ進めていたが、途中で手が止まってしまった。
不思議に思って顔を覗き込むと苦しそうな表情を浮かべていることに気付く。
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作者名：usa | 作成日時：2024年2月3日 8時
