. ページ16
「Aくんはさ、もう少し危機感を持って欲しいんすよね」
「……どういうこと？」
「鈍感すぎっていうか無防備すぎるというか……薫くんが過保護なせいも分かる気がするんすよ」
「俺が悪いってこと？」
「そうは言ってないっすけど薫くんの気持ちも少し考えてあげたらどうかなって」
建英が何を言っているのかいまいち理解できなかった。首を傾げていると、彼は呆れたようにため息をつく。それからそっと手を伸ばしてAの頰に触れた。すると突然耳元で囁かれるものだからびくりと反応してしまう。そのまま彼の指が首筋を滑っていく感覚に背筋が震えた。
「こうやって触られて嫌じゃないの？」
「くすぐったい」
素直に感想を伝えると、建英は呆れて物も言えないというような表情でAを見つめる。しばらく黙り込んでいたかと思うと、やがてため息をついて立ち上がった。
「わかった、もう寝てください」
「タケ？」
「薫くんの気持ち、ちょっとは考えてあげてくださいよ」
それだけ言い残すと建英は部屋から出て行ってしまった。残されたAはしばらく呆然としていたが、やがて再び目を閉じる。だが眠れるはずもなく結局朝まで起きていたのだった。
「おはようございます！」
元気な挨拶と共に肩を揺さぶられて目を覚ます。目を開けるとそこには笑顔の建英がいた。なんでこいつはこんなに元気なんだろうと思いながら起き上がる。すると彼はこちらに水を差し出してきた。
「朝ごはんできてますよ」
「ん、ありがとう」
それを受け取ると一口飲み下す。冷たくておいしい。半分ほど飲んだところでサイドテーブルに置くと、再び布団に潜った。それを見た建英は呆れたような表情を浮かべる。
「ちょっとAくん、二度寝しないでくださいよ」
「まだ眠い……」
そう言って布団を被ると建英がすごい勢いで布団を引き剥がしてきた。仕方なく起き上がると、彼はにっこりと微笑む。
「朝ご飯食べましょう」
「ん……」
まだぼんやりとした頭で返事をしながら建英の後をついていく。朝ごはんをもしゃもしゃ食べて、荷物をまとめると建英が空港まで送ってくれた。
「じゃあね、タケ」
「はい、また！」
建英は元気よく返事をしながら手を振ってくれた。その笑顔に見送られながら飛行機に乗る。遠くなる街を眺めながら考えるのは、薫の顔だけだった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 64人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：usa | 作成日時：2024年2月3日 8時
