笑わせないでよ【シルバー】 (ページ39)

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いつか夢でページ39

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「おやおや、初日とは思えない働きっぷりですね。」

「イルカちゃんやべー。何でも出来んじゃね？」

『働けウツボ！』

バイト初日はなんと大盛況。アズール曰く『貴女目当ての客(バカ)ですよ』とのこと。どうでもいいが私目当てに来るなんて、相当学園生活暇してるらしい。

営業が終わりラウンジの掃除をしていた。布巾を持ち忙しなくあっちこっち行っているAを見て、ジェイドはそう言った。カウンター席でくつろいでいる双子に指をさした。人の仕事見てる暇あるなら手伝え、と。

でもまあ、確かに自分でも手応えは感じていた。皆からよく頼られるため結構楽しいかもしれない。面倒事は嫌いだが、頼られることは好きだ。鼻歌を歌いだしそうになるくらい気分が良かった。

「おや、歌ってくださって構わないんですよ。」

『人の心を読むな。』

「え、イルカちゃん歌うの？早く早く！」

『おいジェイド。』

「ふふふ、うちの片割れがすいません。」

『あんたのせいだろ。』

誰がこんなところで歌うか。

音楽は結構好きだし、兄も好きだと言っていた。しかし、人前で聞かせられるほどのものじゃない。
まあ、普段からで無意識に歌っていたりするのだが。今回も、ボーっとしていた自分が悪い。

テーブルを台拭きで拭きながら、語りだすように歌詞が流れる。自分で歌っているのではなく、誰かに歌わされるみたいに。

キラキラ光を反射する水槽を眺めて、息を吸って吐くかのように、自然に歌にする。如何せん自意識過剰で自信過剰な歌詞が、自信なんて持てない自分に理解出来る訳なかった。だけど少し大人になった今では、何度も繰り返される、『私は貴方を知っている』という歌詞から、自信よりも”焦り”を感じた。

この歌は、自信過剰なんかじゃなくて自信の無い自分を言い聞かせる為の歌なんだ。夢を持てない自分に、少しでも希望を持たせる為の。１０年かけてようやく意味がわかった。

もう何年も歌っていなかったのに、よくこうもスラスラと歌えた。それだけこの歌が好きでよく歌っていたのだ。茨の谷では忌み嫌われた歌だったが、自分も似たり寄ったりで嫌われていた為どこか近しさを感じていたのだろう。

『────いつか、夢で』

貴方にもう一度だけ会いたい。あの頃に戻りたい、だなんて。突き放し合ってるのに、なんで会いたくなっちゃったんだろう。期待なんてした方が負けなのに。

あの夢と同じように、誰か私を愛してくれはしないか。