笑わせないでよ【シルバー】 (ページ36)

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だって彼は薔薇の騎士ページ36

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『……はい、実家に帰省していました。』

「そう言えば、キミは確かカリムの……すまないね、こんなことを聞いてしまって。」

『いえ、気にしていませんよ。』

Aはそっと口元へカップを運んだ。
真っ赤な薔薇に真っ白なテーブルクロス。注ぎ口の無いティーポットには眠りネズミが入っているだろう。完璧な『なんでもない日』だった。

『……流石、と言うべきでしょうか。』

「急には変えなくていいと、トレイが言ったからね。」

『ふふ、……トレイ先輩は本当に素直じゃない方です。』

Aがそう零すとリドルは「なんのことだい？」と首を傾げた。気付かないとは、トレイも不憫だ。きっと誰より貴方を思っているのに。

自分と彼が初めて話した時、彼は”貴方に頼まれて”私を様子見していた。貴方がオーバーブロットした日、私がリドル先輩に心無い言葉をかけた時も彼は私を睨んだ。普段温厚な彼に睨まれたため、かなり動揺した。それにさえ、貴方は気付かなかったのですか。隠れた騎士(シュヴァリエ)の存在に。……なんて、口が裂けても言えないが。

自分の口に封をする様に紅茶を飲み干した。リドルはまだ気にかかっているのか首を傾げている。

『……そう言えば、エースとデュースがさっき薔薇を塗り残していたらしいですね。』

「ああ、みんなで塗り直したよ。」

『ふふ、随分お変わりになられてしまって、少し寂しいです。』

Aの発言に彼はまた、首を傾げる。それもそうか。彼は「普通」になるよう大勢から願われたのだから。

「……そういえば、キミは前のボクのやり方には何も不満を抱いていなかったと聞いたんだけど。」

『ええまあ、私は何とも思いませんでしたよ。”ルールは守るもの”当たり前ですから。』

そう、Aの気に障ったのはリドルの『食べ物を粗末にする』という行為だけ。ハートの女王の法律だって初日で覚えたAからすれば、あのくらいのルール厳守など朝飯前だ。寧ろ入学初日はもっと厳しいものだと思っていたのに、失望した。

『……食べ物を粗末にした罪は重いんですからね。』

ジト～っとリドルを見ると、彼はくつくつと笑った。可愛らしい小動物のようで、守ってやりたい儚さがあった。だが少し笑った後、リドルは目を伏せた。

「……本当に、転寮してしまうだなんてね。」

そう零したリドルは、泣きそうな笑顔だった。自分はまさか、取り返しのつかないことをしてしまったのではないのだろうか。