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魔性の ページ19

アズールside


【呪われた子】

その噂を聞いたことが無いわけではなかった。

数年前、突如茨の谷に現れたという小さな少女。真っ白な髪に、真っ赤な瞳を持つ天使のような容貌で雨風を操り、


────人を不幸にしていったという。



……そこまでの知識しかないが。

茨の谷と近かったとはいえ、深海に住んでいた僕たちの耳に入るのだから相当の人間が知っているはずだ。流石に熱砂の国や夕焼けの草原の方にはいっていないと思うが。
といっても、もう10年は前の噂。もう覚えている者だって少ないだろう。


『(……この件はジェイドに頼みましょう。)』


確かに、噂で聞いていた容姿とは一致している。雨風や自然を操るという点でも一致している。なにより本人がそう言っているのだから、彼女が【呪われた子】と呼ばれていた張本人だということは証明されている。

しかし、『人を不幸にする』とは一体どういうことなのか。意図的に、故意的に不幸にしていたのか。それとも、彼女の力ではどうにも出来ないナニカが働き、それが巡り巡って誰かを不幸にしていたのか。


私に触れば、永遠の眠りにつきます。

私の感情が制御出来ないと、天変地異が起きます。

貴方まで、不幸になってしまうのです。


この口振りからして、意図的に不幸にしていた訳ではない。しかし、僕達が欲しがっていた美しい人魚は、もしかすると僕達ではとてもじゃないが手に負えない猛獣だったのかもしれない。


『……これは、徹夜の予感がするな。』


はぁ、と溜息を吐き眉間をほぐした。さっき落としてしまった書類の端が折れていることに気づいた。


『まさか、ここまで取り乱してしまうとは。』


今日は午前授業だけだった。早く寮に戻ろうとして2階の廊下を使った。そこで彼女に会った時。彼女の青く怯えた顔を見た時、書類を投げ出してしまうほど動揺した。僕を見つけて心底安心したような顔をした彼女に、嬉しいと感じてしまった。独占欲、というものだろうか。投げ出した書類を一緒に拾う彼女が、嬉しそうに笑うから


『……自惚れて、いいでしょうか?』


彼女に届くはずもない願いが廊下に響いた。思い出して真っ赤になってしまうくらいには、僕は末期らしい。自分がこんなふうになるなんて思ってもいなかった。


『……魔性だ。』


空中に溜息を吐く。放課後が楽しみでならなかった。今日付けで彼女はオクタヴィネル寮生(僕のもの)になる。

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作者名: | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/_sora_fleur  
作成日時:2020年8月25日 20時

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