溺れないでよ【シルバー】 (ページ10)

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ゆめはまぼろしページ10

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────ねぇ、……ねぇ起きて。

ゆらゆらと海のクラゲのように漂う意識の中、Aの脳に直接語りかけるようにその声は聞こえた。まるで夢でも見ているかの様に自我がハッキリしなかった。

「ほら。そんな所で眠っていないで、さっさと起きなさい」

この声は……？ぼんやりして働かない脳で声の主を探る。女の子の声だ。なんでNRCに。
違和感の残る聴覚を研ぎ澄ましAはその少女の声に耳を傾けた。ツンとしてそっけない声、女の子らしくないマセた口調、どこか上からな態度、Aはその少女に身に覚えがあった。違う、ここはNRCなんかじゃない。

彼女は私だ。

綺麗に整えられた真っ直ぐな白髪は、質素なヘアゴムで結えられている。白いシャツに黒いハーフパンツ。まさに今から鍛錬をするという服装で、自身の半身程度の木刀を腰に下げていた。彼女が起こそうとしているのは言うまでもない、幼気な表情で寝息を立てているシルバーだった。

「シルバー、鍛錬の時間。セベクや親父殿が待ってるから」

きっとまだ鍛錬まで余裕はあるだろう。しかし動き出したくてたまらないAは、眠っているシルバーを叩き起こした。

「……Aか、すまない。うっかり眠ってしまっていた」

「もう慣れたからいーの。それに、この子たちが教えてくれたから」

彼女の肩で軽快に歌っている小鳥はどうやらシルバーの友達らしい。小鳥以外にも彼の頭や肩や足ではリスやネコなどの小動物が休んでいた。彼の手を引いて起き上がるのを手伝う少女が、Aにはとても健気に思えた。

「手合わせしてくれる約束だったじゃん！」

「親父殿が許してくださったらな」

「……一緒に説得してよね」

「あぁ、わかってるよ」

声変わり前の彼は随分と幼く見えた。まだ七つにも満たないであろう。しかしその歳とは思えないほど佇まいは逞しく貫禄があった。

相変わらず曖昧な関係の二人には不自然な距離感があった。正直Aは今の今までそれに気付かなかった。自分とシルバーの関係は出会った頃からカレッジ入学までずっと良好だと。しかしシルバーの視線には確かに見えない壁があるようだった。

『……ほらやっぱり、』

みーんな、私のことなんて好きじゃないんだ。カレッジ入学後から感じ始めたシルバーの言動の違和感も、私を引き留めようとする視線も、全部。偽物に過ぎなかったのだ。その事実をAが受け止めるには少し酷すぎた。