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記憶と教員 ページ37



『部活動も見学したかったのですが、もう新学期が始まって一ヶ月近く経ちましたし、難しいですね』

わざと少し落ち込んだようにAが残念がると、クルーウェルはう〜んとらしくもなく悩む姿を見せた。Aは策士的だが良心は人よりよく育まれているので、相手が本当に困ると少し申し訳なく思うのだ。しまったな、と思いつつもクルーウェルの顔色を伺っていると、厳かな風格のある年配の教師がまっすぐこちらへ歩いてきた。


「クルーウェル先生、貴方のクラスの生徒なんだが……」


と、途中まで話しかけたが、Aの存在に気づくとピタリと動きを止めた。気配を察知しづらい魔法をかけてもらったが、流石は名門魔法士養成学校の教員というだけあってすぐにAの正体に気が付いた。

「ああ、話していた所へ割り込んですまない。君が例の特待生候補か。」

『はじめまして。Aと申します』

彼はモーゼズ・トレインと名乗った。ほかの教員と比べて少し年老いて見えるが、握手した手は少し強く、体も大きいので少し圧を感じた。城の近衛兵たちも体躯に優れているとは思うが、この学園の人間も教師生徒に関わらず体格に恵まれている者が多いように感じた。トレインは少し考えるように言った。

「しかしファミリーネームが名乗れないのは過ごしにくいと思うが……」

「トレイン先生、今の時代多様性ですよ」

「特待生と言ったら、我が校のパンフレットにも掲載することになる。学校外の人間が見た時に不信感を抱くような事項はひとつ残らず排除すべきだ」

「ではトレイン先生が名を貸してやってはどうです?」

自分のことで揉め始めた二人を見てAは慌てた。実はシルバーが戸籍なしで入学できたことを知っていたAは、自分の名前について特に何も考えていなかったのだ。トレインの言う通り、特待生として入学するなら各寮の寮長たちと同じように学校のパンフレットやホームページに載る可能性がある。ただでさえ女子生徒として優遇されて入学するというのに、戸籍がないと知られれば、勿論見た人は不信感を抱く。
しかし、こうやって二人の会話を聞いていれば、彼らの人となりがよく見えてきた。教員歴が長いだけあってトレインは学園の存続が最優先事項で、問題点にはすぐに気がつく。一方クルーウェルは生徒の気持ちを1番に考えており、上司にも食ってかかるような乱暴さが目立つ。喧嘩するほど仲が良いと言うべきか。Aはまた、誤魔化すように苦笑いをした。

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作者名: | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/_sora_fleur  
作成日時:2021年7月21日 20時

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