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記憶と吉祥 ページ30



食事が終わってから中庭へ散歩がてら談話しながら歩いた。今日の見学について、これからのこと、マレウスやリリアのこと、勿論セベクのことも話した。マレウスに多くの学びと経験をこの学園でさせたいリリアの意向で、谷にいた時のように付きっきりで護衛をすることはほとんどないらしい。
谷で別れてから一ヶ月程しか経っていないが、話すことは沢山あった。何より、新しい環境に放り込まれたシルバーは、らしくないくらいよく喋った。

「Aもここへ来たら多くのことが学べるだろう。きっと魔力も安定するはずだ」

今日の彼は珍しく浮かれていて、ウトウトしている所は一度も見なかった。皆が茨の谷にいた時には壊れかけていた時計の歯車が、一つずつ動き出しているようだった。Aも、もしかしたら、なんて思った。
校内に予鈴が鳴り響き、生徒たちがそれぞれの教室へ移動を始めた。彼も次が移動教室らしく、ここで別れることになった。

『それじゃあ、わた……俺は学園長のとこ行くから』

「ああ、何かあったら呼んでくれ」

『何もない事を祈るよ』

彼が不安になるようなことを言うので、Aは肩をすくめてそうあきれ気味に言った。これからまたウィンターホリデーまでは会えないと思うと、少し呆気ない別れだった。入学したい思いがどんどん募る中、惜しむようにその場を後にした。



「生徒と接触しないようにと、あれだけ口酸っぱく言ったんですけどねぇ」

『申し訳ございません』

Aがすんなりと謝るので、クロウリーはタジタジだった。NRCの生徒は自分の非を相当認めないらしいことが彼の態度から窺えた。Aもだんだんこの学校のことが理解できてきた。

「本当なら私が案内して差し上げたいんですがねぇ。いやはや忙しいのなんの……」

『お気持ちだけで十分です。最低限目立ちたくありませんし』

Aははやく他の場所も見て回りたかったが、彼の話が中々終わらず手こずっていた。忙しいならはやく追い出して欲しい。
クルーウェルは午後から手が離せないらしく、案内役を他に頼んだらしい。その人がまだ来ていないのも理由である。Aは渋々クロウリーの話を聞いていた。するとノックもなく突然、不躾にも何者かが学園長室へ飛び込んできた。

「ご機嫌いかが?学園長に可愛い小鬼ちゃん」

「ノックはしてください!」

またキャラが濃いのが来たと、Aはだんだん慣れてきていた。彼はAに向かって華麗にウィンクを飛ばした。

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作者名: | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/_sora_fleur  
作成日時:2021年7月21日 20時

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