溺れないでよ【シルバー】 (ページ28)

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記憶と再会ページ28

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『こんなに遠い所まで来て、何であんたと一緒に居なきゃいけないのよ』

賑やかな声が飛び交い、食欲を唆る香りが漂う大食堂。長い木製のテーブルを人差し指でトントンと叩いているAの顔は、不機嫌を書き起こしたような表情だ。一方その隣に腰掛ける彼は、平生と変わらない落ち着いた表情である。

「すまない、まさか隠しているとは思わなかったんだ」

『魔法薬飲んでまで隠してんだけど？』

もう一度「すまない」と言う彼の顔には反省の色は見えなかった。と言っても、普段からほとんど表情筋を動かしているところなどないのだが。
順を追って説明すると、あれから学園長室へ行ってクロウリーと暫く話していた。正式に校内を歩き回る許可を頂き、あれよあれよという間に魔法で制服に着替えさせられた。もうどこからどう見てもNRCの生徒だ。腕章に記された寮生の証がディアソムニアだったことが少し面映ゆく感じた。それから、またクルーウェルの所へ向かった。端の席に座ることを条件に授業を受けることを許可された。いくつか教材を借りて、さあ体験授業だというところで事件が起きた。
クルーウェルから指定された最後尾のテーブルには既に先客がいた。NRCは血の気が多いとリリアからしつこく聞かされていた為、因縁を付けられないよう一応挨拶しておくことにした。

『お隣、失礼するよ』

「ああ、構わない」

Aは耳を疑った。この落ち着いた声と素っ気ない抑揚、暫く聞いていなかったが、確かにあの男の声なのだ。
Aは逸る鼓動を抑えるように胸に手を当て、目だけで隣を見た。視界に入ったソイツは、確かにシルバーだった。
Aはクロウリーから”生徒に正体を明かさないこと”と口酸っぱく忠告されていた。いくらシルバーといえど、というか、シルバーにこそバラしてはいけない。いつもボケ〜っとしていてうっかり口を滑らしかねないのだから。
Aは平常を装って授業の準備をした。しかし、ふと何かに気が付いたかのようにシルバーが頭を上げた。そのままこっちへ顔を向けて、何か問いかけるように首を傾げた。

「……Aか？」

『空気読みなさいよ……』

Aはガックリと項垂れた。一方何も知らないであろうシルバーは未だ首を傾げたままで「今日が見学の日なのか？」などと言っている。右手で叩くように顔を覆ったAは、大きなため息をついた。

そうして今に至る。ちゃんと確認しなかったAに落ち度があるが、これではとても不憫だった。