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記憶と嫌悪 ページ20




『……どういうこと』


訝しげにAが眉を顰めて訊ねると、シルバーはAの腕を強く掴んで城の方へ足を向けた。あまりに突然の出来事でAは目を点にして驚いた。

『ちょ、ちょっとシルバー!どうしたの?』

「コイツの話が確かなら、谷がこんなに騒がしいのも無理は無い」

コイツ、というのはシルバーの肩の上に乗っているこのリスのことだろうか。茶色くて丸いリスは、Aから見ても分かるくらい不安そうにしている。
それもそうだ。Aだってこんな顔をしているシルバーは滅多に見ないのだから。ただでさえ凛々しい眉をつりあげて口は一文字に結んでいる。Aを掴む手はその手を離すまいとそれなりに力が込められている。足取りは段々と速くなっていき、とうとう街の中を2人で走っていた。

『シ、シルバー、そんなに急がなきゃダメ?』

Aはこの道を通るのが好きじゃない。服や髪が汚れているとか、そんな事ではなく、村の住民からあまり良い目では見られていないのだ。現に今だって、色んな人に、
Aはハッとある事に気が付いた。いつにも増して村人たちからの視線が集まっているのだ。普段ならAがここを通ろうものなら、何か禍々しいものがいるかのように頑なにこちらを見ず下を向く人間もいるのだ。いくら珍しくAが街中を走っているからといって、ここまで通る人が皆こちらを見ているのは不自然だ。

「やっと気が付いたのか」

『ねえ、何か知ってるなら、今話してよ!』

「…………確証がない。今はまだ、分からない」

足だけはシルバーよりも速い自信がある。だが筋持久力で行ったら勿論彼の方が上なので、腕を引いてくれているとはいえ国境から城まで続く長い道をこのペースで走るのには限界があった。
Aは必死にシルバーに着いて行った。足が吹き飛んでしまいそう。そっちの方がいっそ楽だ。痛い、痛いともがきながらようやく城へ着くと、Aは膝から崩れ落ちた。

「……おい、おい聞こえるかA。息を吸うんじゃない、吐くんだ」

『ハーーッ、ハーーッ、うっ』

「無理をさせて済まない」

シルバーは背をさすって励ますように呼吸を促してくれているが、元気になったら絶対一発入れてやると決心した。シルバーが吸入薬を振ってくれているのを止めて自分の力で立ち上がった。

「こんくらい、大丈夫。」

Aの覚悟を受けたシルバーは、真剣な面持ちで頷いた。Aの手を繋いで今度はゆっくりと歩み出した。

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作者名: | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/_sora_fleur  
作成日時:2021年7月21日 20時

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