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記憶と溜飲 ページ17




「……A様」

『!……失礼致しました』

どうやら身体が自分の思うがままに動くようになっているようだ。Aは拳を繰り返し握り込み確信に変わった。
これは夢、これは夢、これは、夢。そう自己暗示をかけるが、どうしても現状から駆け出したい衝動に苛まれる。そうだ、これは、夢なんかじゃない。私が過去に確かに経験した、現実だ。自分に降りかかり出した”厄災”に冷や汗をかく。また過去を繰り返すのか。

女王陛下のいらっしゃる部屋まで着くと深く深呼吸をした。周りには「陛下のお気に入り」だと嫌味ったらしく言われるが、お気に入りになる為にもそれなりの努力はあったのだ。
胸の前で拳を握って、鼓動を感じる。メイド長が先陣を切ったので後に続いた。既にご着席されている陛下とマレウス様がヴェール越しに見える。すぐそばには親父殿も……


『って、親父殿……!?』

はっと息を飲んですぐ様右手で自分の口を塞いだ。しまった。陛下の御前で声を荒らげるなんて。
チラりと周りの顔を覗き込むがどうやら私の声は聞こえていないようだった。流石に過去の上書きはできないのか。過去に遡っているというよりは過去をもう一度体験しているという感覚だ。
Aは心からの安堵のため息を吐いた。親父殿の方を見ると、こっちに向かってブイサインを作って笑っている。人の気も知らないで呑気なものだ。
しかし、親父殿がこうして王城の卓についているのを見るのは初めてだ。これは、存在しないはずの現実……

「今日は僕とリリアの入学祝いの席だ。そう身構えなくても良い。Aも席に着け」

『……それでは、お言葉に甘えて』

肩がビクビクと震えるのはどうしてだろうか。何時にも増して陛下の圧がすごい。自分が忘れていたのか、それとも記憶で誇張されているのか。なんだって変わらないが、押し寄せる畏怖の念に唇がふるふると震える。

料理がテーブルへ運ばれ、いよいよかと心していた。美しい細工が施された硝子の皿に盛り付けられた料理。見た目は何ら問題はない。匂いも、とても食欲をそそり誤魔化しているという印象は無い。
Aはまず、前菜をゆっくり口に運んだ。零しそうになったがマナーギリギリで嚥下する。そして次の皿、スープ、メイン料理、全て一口ずつ口に含んでいった。今のところは、何の問題もない。というか、この仕事を始めてから一度も毒に当たったことはない。油断は禁物だが。
Aは全ての皿を確認して、フォークとナイフを置いた。

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作者名: | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/_sora_fleur  
作成日時:2021年7月21日 20時

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