検索窓
今日:35 hit、昨日:7 hit、合計:16,601 hit

記憶と脂汗 ページ13



パッと場面が切り替わる。眩暈がしてふらりと姿勢を崩すと、運良くそばには壁があった。冷たい石壁には見覚えがある。ここはどうやら騎士たちの練習場のようだ。
辺りを見渡してみるがAと思わしき人物はいない。流石に顔見知りの兵士などは見たが、シルバーやセベクさえ見つからなかった。


『……?』


記憶を巡っていてこんなバグが起きるものなのだろうか。ムキムキの騎士に囲まれて呆けていると、ふと不審な音が耳に入った。風を切る様な鋭く尖った音だ。それが聞こえてくる方へ目を向けると、練習場の裏だった。
木々の隙間から見えたのは、Aだった。先程見た時とは随分姿が違った。体つきは逞しくなり、程よく筋肉がつき身長も伸びている。伸ばしていた髪はばっさりとおろされ、目つきも鋭く輝いている。


「っハァ、……ハァ、」


しかしこれだけはどうかと思った。我ながらどうかしている。木刀で素振り一万回なんて、非効率にもほどがある。周りの兵士たちに混ぜて貰えずに、一人きりで。
Aは元より人見知りをする子供ではなかった。しかし例の事件から若干の人間不信となり、また同時に孤独を拒むパニック障害に陥ってしまったのだ。煩わしく面倒な性とは承知している。こんなに未来の自分に悲観されているのだから報われないのは当たり前だ。
諦めをつける様に壁に凭れ掛かった。そんな私の目の前を誰かが横切る。不意に吹いた風でその銀髪が揺れた。


「精が出るな。」

「シルバー、」


彼は自身のタオルでAの汗を拭った。彼女は恥ずかしそうに目を逸らしながら「ありがと、」と呟いた。シルバーの身長を見る辺り、前回の記憶からそう時間は経っていないようだ。Aだけが急成長している。背丈だけならシルバーと並んでいる。一言で表すと、可愛くない。


「最近無理してないか?」

「してないけど、何?あたしの方が強いからって弱気になってるワケ?」


なんて生意気なんだ。思春期しんどい。自分の黒歴史を目の当たりにして眩暈がした。腰に手を当て偉そうな口を聞く幼稚なAに、シルバーは「そういう訳ではないが……」と返答に困る。


「確かにAは強いが慢心は身を滅ぼすぞ」

「はいはい、冗談だってば」


確かこの辺りからだろうか。彼と思うように会話が成り立たなくなったのは。歳や性別の違いもあるが、やはり二人の騎士道の方向性の違いだろう。Aは小さな自分を見ては、ふっと溜息を吐いた。

記憶と葛藤→←記憶と血涙



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (49 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
93人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名: | 作者ホームページ:https://marshmallow-qa.com/_sora_fleur  
作成日時:2021年7月21日 20時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。