𝟙 ページ1
「…え、」
信じられない。…いや、信じたくもない。
道端で、オオカミが死んでるとか。
それを、全く見えていないように数少ない通行人が通っていくのだとか。
「…どうゆうこと」
にわかに信じがたい光景に目眩がする。…なんで、なんで私のいつもの帰り道にこんな異様な風景がある訳？
取り敢えず、と言ってはなんとでも言えるが、通行人がいなくなった辺りでオオカミに近づいてしゃがんで声を掛けてみる。けれど、あまり反応は見られない。反応されて噛まれても困るけど。
「おーい…？」
ちょん。
指が少し触れた瞬間、急に顔だけ上げて目を見開いた。オオカミが。
そしてザッ、と言う音が大きく聞こえるかのように後ずさりする。…いや、そんな驚かれても困る。
けれど、攻撃しそうな雰囲気はない。むしろ怯えてる感半端ない。てか生きてたんだね？
「……どうも」
ｸﾞﾙﾙﾙ...と警戒されるような声。…皆無視してるから幻覚だと思いたかったのに反応されて威嚇までされるなんて。こっちだって、いろんな対応に追われた新卒新入社員やって幻覚見えるほど疲れてるんだな、休もう。ってなる前だったじゃん。
「うん、…帰ろうかな。」
もう全てを見なかったことにしよう。ダメだ、今日の私どうかしてる。幻覚も幻聴も見えちゃうとか。だって他の人やっぱり見えてなさそうだしね。
そう、心に区切りをつけて腰を上げた瞬間だった。
「あら！貴方、よくないものが見えてるんじゃない？」
可愛らしいが、手に赤黒い変な色をした数珠を持ったおばあちゃんが話しかけてきた。
…オオカミのことが見えるの？え、じゃあ今までの人達全員無視？そんなことある？
「…いや、ミエテナイデス」
「見えてるわ！ほら、お祓いしに行ってみない？」
「見えてないって！？」
嘘を決め込むことにした私を、早く！と目を輝かせて私の手をぐいぐい引っ張るおばあちゃん。
…絶対このおばあちゃん変な宗教入ってるって思うの気のせいかな。いやだってよくよく見れば持ってるバックに変なチャーム付いてるし。
「さ、行くわよ！」
「いや行かないから！！？」
おばあちゃんの手を無理矢理離して、猛ダッシュ。
…さっきのオオカミを抱いて。だって、私がおばあちゃんと言い争ってる時にぱたって後ろで倒れたんだよ？そりゃあなんか保護しなきゃいけない気がするじゃん…？
「ほんっとに、…！」
なんで、仕事終わりにこんな疲れることしなきゃいけない訳…！？
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 114人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ちゃかの | 作成日時：2022年8月28日 10時
