【歌い手】惚、好、愛、結 team.B【大型コラボ】 (ページ33)

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没分暁漢。
こちらのことを理解しない男、という意味のその言葉。

残念ながら俺はその仲間に入れない。
彼女の嘘を見破ってしまっているから。

きっと好きでなければ気づかなかった。
彼女の嘘も、笑顔の裏にある本音も。

好きだから、愛おしいから気づいてしまった。
それが良かったのかどうなのかはわからない。けれど、彼女のことを理解できていたのだとしたら良かったのかもしれない。

「……私は貴方の言う通り、貴方の命を奪うためにこの国に来ました。そして貴方の心を奪いました」

頬に触れる俺の手に、彼女は自分の手を重ねた。

「さっきの彼らは、私の為に命を犠牲にしたんです。この瞬間を、貴方が弱る瞬間を待つために」

彼らも可哀想だ。
自らを犠牲にするなんて。

こんな時代なんて早く終わってしまえばいい。
そしたら命が無駄に消えることなんてないのに。彼女が俺に刀を向けることなんてないのに。

「私の国の人達は私に期待しています。貴方を倒すことが出来るだろうと。そして自分たちはこの国を支配下に置くことが出来るだろうと」

その瞬間、彼女の頬にかけていた手に冷たいものが落ちた。
それは彼女の涙だった。ほろりと流れていくそれに、俺は呆然と眺めることしか出来ない。

「私は貴方を殺さなければいけない。でないと、国に帰れないでしょう」

彼女は涙を拭うこともせず、言った。
そして重ねた手を下ろし、俺の手を自分の頬から外す。

彼女は先ほど落とした刀を手に取った。
きらりと輝くそれは、きっと彼女がずっと隠し持っていたものだ。
俺にそれを向ける瞬間までずっと持って、待ち続けていた。

「さっき貴方が言っていた言葉、それは嘘です」

「……え？」

「貴方は知らなかったでしょう、私は、」

そうして彼女は刀を大きく振りかぶった。
涙を流したまま、美しい黒い目を俺に向けて、そして。

「私は、貴方を愛していたんです」

＿＿＿＿その刀を、自分の胸に刺した。

スローモーションのようだった。
崩れていく彼女の体。あたりに散る赤い花弁。彼女を赤く染めていく、刀。
苦しそうに顔を歪める、彼女。

「っ、おい！！！」

金縛りから解けたように、急いで彼女に駆け寄る。

嘘だ。どうして、彼女は自分自身に刀を向けた。
俺に向ける筈だったその刀を。どうして。

視界が揺れた。
ひどく心臓が動いている。どくどく、と俺を急かすかのように動いている。

「……わたし、は、貴方を殺すことなんて、出来ません」

そう言って彼女は苦しそうに歪めながらも、微笑んで見せた。