【センラ】愛しているから/菊香 ページ29
「っ………」
一瞬の油断が命取りになる。それが人数差があるなら余計にそうだ。
極限の緊張感と集中力が私たちを襲う。
じり…と距離を詰めてくる相手に、盾のように私の前に立ちふさがる彼。
蒸し暑い風に彼の眩しいほどの金色の髪が靡いたその瞬間。周りを囲んでいた敵の1人がこちらに襲いかかってきた。
「いやっ…!」
「A、絶対に俺から離れちゃダメですからね」
目の前の大きな背中に縋りつくような思いでこくこくと頷くと、それを視界の端で捉えたらしい彼が少し笑ったように見える。
そうして、持っていた刀を二本両手に持ち襲いかかってきた相手にそれを向けた。
刀同士のぶつかる甲高い音が鼓膜に響く。
その音がどうしても怖くなってしまい、ひたすらに足元を見た。
この時代を生きてしまっているわけだからそろそろこのような軽い戦みたいなものにも慣れていかないと駄目だなんて自分でよくわかっている。
けれど、心では強く保とうと思っていても体は正直だ。肩が震える。
「………今は全てを俺に任せてください。もしつらなったら目瞑ってええから」
「ごめ、んなさい……っ」
「なーに謝ってんの。男はね、守るものがあると強くなれるんですよ」
センラに任せてください と柔らかい笑みを私に見せて、そして彼は鋭い視線を周りにいる相手に向けた。
私は言われた通りにセンラさんの陰に隠れて周りは見ないようにしてひたすら待っていた。
ごめんなさい、センラさん。
私なんかを守るために戦ってくれて、ごめんなさい。
その言葉は口の中で飲み込んだ。
「……ぐっ、は…」
鉄の匂いがして、視界に赤が映る。
敵の1人が、また倒れていった。
センラさんは強い。
きっとこの国一番の武士だと思う。
彼以外に敵4人に1人で立ち向かおうだなんて思う人はいないだろう。
私がセンラさんに会ったのは数か月前のこと。
私の落とした髪飾りをセンラさんが拾ってくれたのが始まりだった。
もう一度センラさんに会うために町に行き、彼を見つけた時の喜びは忘れられない。
それから2人で会う機会が多くなり、彼に告げたのだ。
『私、センラさんが好き』
自分の発した言葉を思い出すと心臓がドクッと揺れて、胸が苦しくなる。
それを彼に悟られぬように着物の裾をギュッと握った。
40人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
飴依存症の人*神作掘り出し隊(プロフ) - すげえ…どれも良かったけど菊花さんので泣いちまったよ…。 (2019年9月13日 16時) (レス) id: 9ac419bf0d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ