【nqrse】桃弧棘矢/トーストぱん ページ1
この小さな鳥を、俺だけの鳥籠に閉じ込めてしまいたい。少し先を歩く小さな背を見てそう強く思った。
毎朝見る美しい羽のような黒髪は夕日により暖色を含む柔らかい黒色になり、ゆらゆらと髪が揺れる度に髪の隙間から白い項が見える。突如、ふわっと美しい髪が弧を描き、吸い込まれそうなほどに澄んだ瞳と目が合った。
「なるせ、早く鍵ちょーだい!暑くて溶けちゃいそうだよ。」
そう言いながら右手で俺のカバンの中を漁るA。その手を掴みカバンの横についているポケットへと誘導すれば、そっちか!と笑いながら鍵を取り出し、慣れた手つきで鍵を開けた。
「先に部屋行ってて。お茶持ってくから。」
「んー。クーラーつけていい?」
「どうぞー。」
喜ぶ声と一緒に急いで階段を上がっていく音が聞こえる。早く涼みたいのだろう。麦茶が入ったグラスを手に持ち部屋に入ると、不機嫌なAがいた。
「どしたの。」
「クーラーつけても暑い。」
そりゃそうだ。今までこの部屋は太陽光を浴びまくっていたのだから、クーラーをつけたばかりでは涼しくならない。
「そのうち涼しくなるから。麦茶あるから我慢して。」
少し多く入ってる方のグラスを手渡してから俺も床に座り、Aと対面する形になった。
「んで?話したいことって?何かあった?」
そう。今日俺の部屋にAが訪れたのは『話したいことがある』から。こういう時は何かしらの相談だ。他にも友達がいるのに真っ先に俺に話す。不思議に思い前に聞いたら、俺が親友だからだそうだ。
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「今日はそういう話じゃなくてね。えっと…」
俯いて震えながらそう言った。余程怖いことがあったのかな。大丈夫だよ。どんな災いがAに降り掛かっても俺が全部消すから。今までのように守ってあげるから。
「ん、ゆっくりでいいよ。いつまでも待つから自分のペースで言って?」
うん、と小さな声で頷きAはしばらく黙り込んだ。外からはセミの鳴き声が聞こえてきて静かなこの部屋によく響いた。
「聞いて、なるせ。」
顔を上げたAは俺の顔を見るや否やすぐに手元のグラスに目を向けた。
「あのね…」
そう言うと同時に顔を上げ俺と目を合わせてきた。頬を桃色に色付かせたAは、幸せそうにはにかんだ。嫌な予感がした。セミの鳴き声なんて聞こえないくらい心臓がバクバクと暴れる。
「私ね、好きな人がいるの!」
可愛い笑顔で教えてくれる君を見るのがとても苦しい。
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飴依存症の人*神作掘り出し隊(プロフ) - すげえ…どれも良かったけど菊花さんので泣いちまったよ…。 (2019年9月13日 16時) (レス) id: 9ac419bf0d (このIDを非表示/違反報告)
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